コラム

いきり立つ「台湾有事」に盲点あり

2022年06月01日(水)14時30分

つまり、台湾の半導体産業の対米ポジションは強い。TSMCの顧客の半分以上がアメリカだから、中国の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)との関係を切れとか、米国内で工場を建設しろなどの要求には従うふりをしているが、その「ふり」をやめるとき、アメリカはなすすべがないだろう。いつか台湾企業が米中双方に対して同等のビジネスを展開しますと宣言すれば、アメリカはのむしかない。

いま中国経済は不動産市場が冷え込むなど、これまでの成長を支えたエンジンが壊れつつある。もし中国経済が沈下して、中国の立場も弱くなると、台湾は自分の提示する条件で中国との提携を強めることさえ可能になるかもしれない。

90年代後半の中台関係はまさにそうだった。そのときに日米が「台湾の自由を守れ」と叫んでも、台湾人はピンとこないだろう。

だから、「台湾有事」をネタに防衛予算を強化するのは不要な装備を増やすだけで、ゆがんだ結果を生む。日本の防衛力強化は絶対に必要だが、予算は宇宙配備のミサイル防衛網やAI兵器、サイバー技術の開発など、日本自身の抵抗能力と技術力の強化に向けるべきだ。

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プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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