コラム

日韓関係は歴史と感情の自縄自縛

2021年06月25日(金)15時15分

日韓関係の完全な連携は困難だが関係の管理は必要 REUTERS/Toru Hanai

<隣国が故に怨念が蓄積し今後も完全協調は困難だが、過去に取りつかれた世代はやがて去り行く>

「韓国人は四六時中、『日本憎し』で燃えている。だからこの国の大統領も反日で喝采を受けようとして、慰安婦や強制労働者の運動を後押しし、世界中で日本の悪口を言って回る」。韓国については、こんな印象がある。

しかしコロナ禍以前は、年間700万人超もの韓国人が日本を訪れていた。2019年10月内閣府の調査では、韓国に親しみを感じる人は18~29歳の年齢層では45.7%に達していた。そして日本は、世界最大級のK-Pop「輸入国」である。

つまり日本も韓国も、国全体がまるで一人の人間であるかのように反日や嫌韓でまとまって考え、動いているわけではない。韓国の権力者や民間活動家、マスコミは違う思い込みや打算で行動する。日韓対立が起きるたびに相互理解のために額に汗を浮かべて諸方を説得に回る韓国人識者を筆者は知っている。そういうなかで国全体をたたけば、韓国国民全員を敵に回す。日本も韓国も、そんなことをしている余裕はない。

戦後の日韓関係は、1965年の日韓基本条約と付属の諸協定で法的枠組みが定められている。この時の韓国は目いっぱいの賠償を日本側に要求したが、「両締約国は......両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が......完全かつ最終的に解決された」という了解の下、日本は合計8億ドル相当の官民経済協力を行った。これは当時の韓国政府の年間予算が3億5000万ドルだったことを考えれば大規模なものだった。

大国のはざまにあった両国

しかし当時の朴正熙(パク・チョンヒ)政権に反対し、投獄すらされていた若者たち―文在寅(ムン・ジェイン)大統領はその1人―は、後に革新系政党を形成し、この条約の改正を今でも夢見る。大統領周辺や政府、裁判所にはこうした思いを抱えた「386世代」の者が何人もいる。

韓国で民主化が進んだ1990年代以降、さまざまな問題に関与するNPO法人などが政府助成金も得て急増した。その中には慰安婦や強制労働問題で日本に謝罪・賠償させようとするものもあり、指導階層の家族まで取り込み強力な政治力を示すようになった。純粋な気持ちから運動に加わる者も多いが、活動資金の私服を糾弾される者もいる。

運動に自分の人生と生活を懸けている者は、問題が解決すると困る。日韓両国政府が散々知恵を絞って解決策を考え出しても、ひっくり返す。1995年、日本政府は民間からの募金でアジア女性基金を設立したが、韓国ではそれらのNPO法人が、この資金を受け取らないよう、元慰安婦に働き掛けた。また2020年5月には、日韓の企業と個人の寄付金で元徴用工への補償を肩代わりさせようとする法案も韓国国会で審議にさえ至らず、つぶされてしまう。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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