コラム

菅首相選出に国民はしらけムード、日本の統治体制は死に体だ

2020年09月15日(火)06時45分

派閥が前面に出たご都合主義の後継者選び? YOSHIKAZU TSUNO-POOL-REUTERS

<自民党も民主党も駄目となっていたから、安倍政権は「官邸」主導の政治を繰り広げた。今回の「後継選出」がしらじらしい背景には、いくつかの問題が横たわっている>

9月16日、日本の国会で新たな首相が選出される。だがこれまでのニュースを見ていて、どこかしっくりこない。何か本質的な問題があるのを知っていながら、それを隠して無理に騒ぎ立てている感がある。

本質的な問題は、今の日本の統治体制は死に体になっている、ということではないか。世論は2009年に自民党の政治と人に愛想を尽かして民主党政権を生んでみたものの、消費税を増額されて幻滅し、2012年に民主党を政権からたたき落とす。つまり自民党も民主党も駄目となったこの時点で、日本の統治体制は死に体となったのだ。2012年に返り咲いた安倍政権は、だから「自民党」はできるだけ表に出さず、「官邸」主導の政治を繰り広げた。

政権が長期化するにつれて自民党は再び前面に出てきたが、「政権の配当」を得んとする者が多く、贔屓(ひいき)の引き倒しが目立つようになった。それでも自民党は選挙で勝利を重ねたが、世論の大半にとっては自民党に投票したというより、「安倍とその手兵(安倍党)」に投票したという、無意識の意識が勝っていたことだろう。「負担増なしで、何でもちゃんとやってくれそうだ」という、いたずらな望みに懸けていたにすぎないのだが。

ところが安倍首相が辞任を表明すると、自民党は自分が仕切って当然という顔をして、しかも「派閥」などというゾンビを前面に立てて後継を決めるのだと言う。これでは総理の後継者というより、どこかの組織の跡目相続に日本全体が付き合わされていることになる。しらけて当然だ。

世論は首相直選を求めている。だがそれには憲法改正をしなければならないし、「一人の優れた指導者がいれば国の問題は全て解決する」と思い込んでいる人たちがとんでもないポピュリストを選んでしまう可能性もあるので、賛成できない。

既存政党の枠組みが老朽化

かなりの経験と実績を持ち、世論・マスコミによる「審査」を経た人物が出てくるようにしないといけないから、まず各党内で幅広い形での党首選出のプライマリー選挙を行い、出そろったところで総選挙をやれば、今の憲法の枠内でも民意を反映し、かつそれなりの人物を総理に選ぶことができるだろう。今回そうしなかったのは、自民党内部の都合にすぎないのではないか?

今回の「後継選出」がしらじらしい背景には、もっと大きな問題も横たわっている。それは、日本だけでなく世界中で、既存の政党の枠組みが老朽化して身動きが取れないようになっているということだ。

【関連記事】菅義偉、原点は秋田県湯沢のいちごの集落 高齢化する地方の縮図
【関連記事】自民党総裁選に決定的に欠けているもの

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:経営幹部を多国籍に、「唯一の例外で終

ビジネス

NY外為市場=円一時10カ月ぶり安値、片山財務相の

ワールド

再送-〔アングル〕日中対立激化、新たな円安の火種に

ワールド

イスラエルがガザ空爆、25人死亡 停戦違反巡る応酬
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story