コラム

米中対立時代のサバイバル術──日本流「二股」戦術も限界か

2019年03月05日(火)10時30分

欧米に圧迫された中国がロシアと共にユーラシアを経済圏で囲い込む、という恐れもあるまい。中ロだけで経済圏を発展させるほど技術革新はできないし、ユーラシア諸国はEUや日本との取引を優先するだろう。中ロ間の貿易でさえ元やルーブルを使うのは両国企業にとって煩雑で、ほとんどがドル決済だ。

それでも欧米から中国経済を完全に遮断することはできない。世界中の大手自動車メーカーが中国で100万台規模の生産をしているように、中国国内市場向けの分野には欧米の資本と技術が流入し続けるだろう。冷戦時代でさえ、日米欧の企業は競ってソ連に鉄鋼や化学工業、自動車のプラントを輸出した。

一度グローバル化したサプライチェーンを改造し、中国抜きの形を立ち上げるには時間がかかる。しかし軍需産業やサイバー技術面を中心に、力による支配拡張という帝国主義的思考を捨てない中国をグローバルチェーンから隔離しておくのは、日本の安全確保にもかなう。

今後も日本は米中二股を続けるにしても、「よく考えながら」の姿勢が必要になりそうだ。

<本誌2019年03月05日号掲載>

※3月5日号(2月26日発売)は「徹底解剖 アマゾン・エフェクト」特集。アマゾン・エフェクト(アマゾン効果)とは、アマゾンが引き起こす市場の混乱と変革のこと。今も広がり続けるその脅威を撤退解剖する。ベゾス経営とは何か。次の「犠牲者」はどこか。この怪物企業の規制は現実的なのか。「サバイバー」企業はどんな戦略を取っているのか。最強企業を分析し、最強企業に学ぶ。

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プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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