コラム

安田純平さん拘束から3年と、日本の不名誉

2018年08月02日(木)11時30分

スペインでは政府とメディアが協力して拘束されたジャーナリストの解放を実現したことは知られており、ドイツでは政府とメディアの間で、事件解決まで人質関係の報道を控えるという取り決めがあったと報じられている。安田さんの件では、日本政府とメディア、ジャーナリストの間で、協力関係はない。

メディアやジャーナリストが一方的に報道を自粛するという話ではなく、人質が安全に解放されることを最優先として、政府とメディア、ジャーナリストが情報を交換しながら、協力するということである。

メディアが悪影響、代理人を相手にするな、という議論もあるが

メディアが動くことで、安田さんの救出に悪い影響を与えるのではないか、という議論もある。

しかし、私がこの3年間の動きを見る限り、拘束されたスペインやドイツのジャーナリストが1年以内に解放されているのに、安田さんが3年を過ぎても解放されず、解放に向けた手がかりもない最大の理由は、政府がこの問題で真剣に動いていないことだと考えるしかない。本来ならとっくに解決しているはずの問題であろう。

自称「代理人」を相手にするな、という議論もある。しかし、スペイン人やドイツ人ジャーナリストが、代理人を窓口とした交渉で無事に解放されていることを考えれば、代理人経由のルートは、拘束組織とつながっているルートであり、まやかしのルートではない。

もちろん、代理人と交渉すれば問題がすぐに解決するというほど単純ではなく、拘束組織の指導部の意思を確認するためにも、トルコや湾岸諸国などを含めて、幅広く働きかけていく必要がある。

代理人との交渉を忌避する理由に、「テロ組織との身代金交渉はしない」という議論があるが、どのような解決策があるのかは、情報収集や交渉をしてみなければ分からない。

ましてや、安田さんの場合は、拘束している組織は「シリア解放機構」と言われているが、同組織の公式な意思表明がないため、拘束組織の確認から始めなければならない。解放のための条件にしても情報収集をしてみなければ分からない。

日本政府が働きかけを行った事例も過去にはあった

イスラム武装組織に拘束された事例としては、1999年8月にキルギスで国際協力事業団(JICA)の日本人技師4人が通訳らと共に拘束され、2カ月後の10月に解放された事例がある。

犯行組織は国際的にテロ組織として認定されている「ウズベキスタン・イスラム運動」(IMU)であり、日本政府は「テロには屈せず、犯行グループによる不法な要求には譲歩しない」(外務省調査報告書)という方針で対応した。

一方で当時の小渕首相がキルギスの大統領と電話会談するなど働きかけを行い、キルギスや隣国タジキスタンに現地対策本部を置き、積極的な情報収集にあたった。キルギス、タジキスタン両政府を通じての働きかけによって、人質全員が無事解放された。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:イラン戦争で高まるリスク、米大統領後継者はバ

ワールド

トランプ氏、国家情報長官はやや「弱腰」 イラン核問

ビジネス

トヨタ、2月世界販売3.3%減 中国不調で3カ月ぶ

ワールド

補正予算、数字詰めないと作れない=中東情勢受けた支
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 2
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 3
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のSNS動画が拡散、動物園で一体何が?
  • 4
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    【銘柄】東京電力にNTT、JT...物価高とイラン情勢に…
  • 7
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    カタール首相、偶然のカメラアングルのせいで「魔法…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 4
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story