コラム

シリア内戦で民間人を殺している「空爆」の非人道性

2016年10月14日(金)18時55分

自軍の犠牲を最小限にするため、空爆やドローン攻撃が主体に

 シリア内戦を離れれば、21世紀に入ってから、アブガニスタン戦争やイラク戦争以降を見ても、空爆による民間人の犠牲は増えている。イラク戦争で明確に出てきたように、自軍の犠牲を最小限にするために、大規模な空爆やミサイル攻撃を行った後で、地上軍を進めるという手法がとられるようになった。イラク戦争後にイラクで取材をして、イラク人から米軍の空爆で家族を失ったとか、家族に致命的な障害が残ったという訴えを行く先々で聞いた。米軍から補償を受けたという例を、私は聞いたことがない。

 2008年末以来、3回にわたったイスラエル軍によるガザ攻撃でも、大規模な空爆によって、多くの民間人が命を落としている。2014年夏の50日にわたる攻撃では、国連の調べで、2551人が死亡し、そのうち民間人1462人(65%)である。この時の国際社会の反応の鈍さには驚いた。国連安保理の場での責任追及さえなかった。

 2009年1月に就任したオバマ米大統領は、イラクからの米軍撤退やアフガニスタンからの米軍削減など、地上部隊を減らしたが、その代わりに、空爆やドローン(無人爆撃機)を使った軍事作戦に集中した。今年7月には2015年末までの7年間に軍事作戦の巻き添えで死んだ民間人は「64人から116人」だと発表した。この数字は、SNHRが集計したシリア国内だけの有志連合の空爆による民間人の犠牲を遥かに下回る。

 オバマ大統領の発表については、欧米メディアでも実際にはもっと多いのではないかと疑問を投げかける記事が多い。SNHRは米軍が民間人の犠牲を認めないと繰り返しリポートで書いている。この発表を見る限り、オバマ政権には空爆やドローンがもたらす非人道性への認識が低いと考えるしかない。

 現在のアレッポなど反体制地域へのアサド政権軍やロシア軍による無差別空爆は、スペイン内戦に介入したドイツ空軍によるゲルニカ爆撃や旧日本軍による中国・重慶爆撃で始まった敵への戦略爆撃の流れの中にあると考えるべきだろう。日本は加害者でもあるが、第2次世界大戦末期に日本本土空襲を受けて、日本全国で30万人以上が死んだ被害の経験も持つ。

 私事になるが、私の亡母は1931年生まれで、13歳で遭遇した長崎県・佐世保大空襲で逃げ回った記憶を、生前繰り返し話した。2時間ほどの間に1200人以上の市民が死んだ。煌々と空を焼く焼夷弾の恐ろしさや、市が焼け野原となり家を失った話など生々しい経験である。アレッポの悲惨なニュースに接して、日本人は空爆の非人道性にもっと敏感であってもよいのではないかと考える。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

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