コラム

イギリス政権交代の本当のカラクリ

2024年07月12日(金)17時45分
北アイルランドのベルファストを訪問したイギリスのキア・スターマー新首相

就任直後から北アイルランドのベルファスト訪問など精力的に動き始めたスターマー新首相(右) LIAM MCBURNEY-REUTERS

<事前予想通りに終わった英総選挙だが、労働党が大きな支持を集めて地滑り的勝利と言うのとはちょっと違う>

イギリスの総選挙の結果でサプライズだったのは、サプライズが何もなかったことかもしれない。おおむね予想通りだったのだ。

労働党が大多数となり、保守党は痛い大敗を喫し、政治情勢はさらに「分断」されることになった――つまり、議会では長年の例を覆してこれまで以上に「第3党」の自由民主党が議席を伸ばし、「リフォームUK」や「緑の党」を含む「その他」の党が若干増えている。

スコットランドの政治を一世代の長さにわたって支配してきたスコットランド民族党(SNP)は大幅に縮小し、今ではスコットランドで労働党に次ぐ3勢力のうちの1つ程度になっている。

労働党が大規模な地滑り的勝利を収めたとだけ総括するのは語弊がある。僅差の勝利者を大いに利する傾向があるイギリスの選挙システムが大いに関わっているからだ。今回はこれまで以上にそれが顕著だった。

今回の選挙で労働党の得票率は、(悲惨な結果だった)2019年から2ポイントしか上昇せず、総得票数のわずか33.8%......しかも、ただでさえ低投票率だった。


保守党に対する批判票

これは、労働党やそのリーダーであるキア・スターマー新首相に熱狂的支持が集まっていない事実を反映している。これは保守党に対する批判票なのだ。

保守党は、ボリス・ジョンソンのペテン(いわゆる「パーティーゲート」)や、悲惨なリズ・トラスの超短命政権、ここ数年のイギリスの全般的にお粗末な経済状況(政府のせいばかりとは言えないものの、とりわけインフレ率の高さ)などのせいで罰を与えられている。

スナク首相はひどい働きをしたわけではなかったが、保守党の運勢を上向かせるには程遠い仕事ぶりでしかなかった。彼は敗北の規模を拡大するようなお粗末な選挙運動を展開したと見られている。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story