コラム

「白人で男性」イギリス建築界で活躍する日本人女性、大杉薫里の作品にのぞく和の精神

2023年08月11日(金)09時00分
大杉薫里

建物より空間を重視したという大杉 ©JIM STEPHENSON

<環境を重視し、水の流れを考慮し、空間の意味を考える――英大手建築事務所でディレクターを務める大杉薫里は、手掛けたプロジェクトもその人柄も興味深い。本誌「世界が尊敬する日本人100人」特集に寄せて>

いつものとおり、僕は「世界が尊敬する日本人100人」の特集に楽しんで参加したが、いつものとおり、一人一人の興味深い個性にもっとスペースを割いて書けないことが残念だった。今回は、僕はロンドンの建築家、大杉薫里に会って取材する機会を得た。

僕はロックダウン中にBBCの番組で彼女を目にしていた(当時はテレビ漬けの毎日だった)。そのなかで彼女は、王立英国建築家協会のスターリング賞にノミネートされた、自身の建築を紹介していた。建築家の世界はイギリスでは「pale and male(白人で男性)」と言われる専門職分野の1つで、その業界でアジア人女性がこんなにも大手建築事務所(スタントン・ウィリアムズ社)でこんなにも要職(ディレクター)に就いていることに興味を抱いた。

さらに、彼女の英語がほぼネイティブ、という点も好奇心を引かれた。彼女は高校生の時にイングランドに渡ってきて、ボーディングスクールで学んだことも判明した。

テレビの前で、とても洗練されていて自信に満ちた態度だったのも印象的だったから、実はあのとき、どんなにドキドキしていたか、と僕に打ち明けてくれたのもまた面白かった。

テレビで紹介されていた、ノミネートされた建築プロジェクトは、ケンブリッジ大学の「主要職員」たちが暮らす街エディントンのものだった。それは単にアパートメントの建物群というより、学校やアートセンターを備えた新コミュニティーというしろものだ。大杉のチームは住居部分を担当していた。

単なるアパートでなく「共有住宅」

イギリスでは概して、ケンブリッジのような有望な場所では特に、手ごろな住宅が深刻なほど不足している。「主要職員」たち(教師、消防士、看護師など)はしばしば、彼らを必要としている地域では高すぎて住むことができない。そこでケンブリッジ大学は雇用主として、講師や研究者なども含む大学スタッフを住まわせるために、エディントンを建造した。

サステナビリティーや断熱性などで最先端の環境基準を追求した好例として、エディントンは注目を集めた。例えば建物は通常より金属の補強材の使用を減らしているし、断熱を強化している。「水減衰」というシステムの説明も興味深かった。雨水を単にタンクに貯めてトイレや庭の水やりに使うというだけではなく、(屋上緑化をスタート地点に)さまざまなシステムを通過することで、降水の勢いそのままに下水や排水路に水が流れ込まないように水流を緩やかにする仕組みだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウ大統領府長官の辞任、深刻な政治危機を反映=クレム

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ大統領と電話会談 米での会談

ワールド

ネクスペリアに離脱の動きと非難、中国の親会社 供給

ビジネス

米国株式市場=5営業日続伸、感謝祭明けで薄商い イ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story