コラム

買い物と借金狂いのイギリス人

2018年01月24日(水)15時10分

スクルージと呼ばれるけれど

クリスマスは本当に人々のストレスになっていて、「お祝いシーズン」どころの話ではない。今冬は親戚の女性から、「狂気から逃げる」ために数日間留守にしようと思う、とちょっと心配なメールを受け取った。しばらく僕は、彼女が何か大変な事態に巻き込まれたのかと考えたが、数分たってから、混雑した店やプレゼントを買ってラッピングしてごちそうを買い込むプレッシャーなどから逃れたいだけなのだと気付いた。

でもクリスマスの12月25日は、延々続くショッピングレースの「ゴールライン」ではない。むしろ一時休憩のようなものだ。クリスマス後のセールは直後に始まる。かつては「ニューイヤーセール」と呼ばれ、それから「ボクシングデーセール(クリスマスの翌26日、教会が貧しい人々のために募った寄付のボックスを開いた日に由来)」になった。

でも今ではオンラインショップの一部は、まさにクリスマスの25日からセールをスタートさせている。クリスマスまでに山ほどプレゼントを買い、クリスマスの朝に山ほどプレゼントを受け取り、それから同じ日にショッピング第2ラウンドに突入すべくネットに向かう人々もいる。

多くの人々がクリスマス用にクレジットカードで支払いをする。彼らは預金口座にない数千ポンドものカネを使い、クレジットカードの借金を膨らませる。こんな振る舞いは以前なら無謀とされたが、今では常識だ。これは典型例とはいえないが2年前、ある人(名前は言えない)が僕に電話してきて、2500ポンド貸してもらえないか、クリスマスに奮発するためにヤミ金から借金して返せず、身の危険を感じているのだと言った。僕は彼の問題解決のために力を貸し、その見返りとして彼に貸した金の一部が返ってこないという目に遭っている。つまり僕はいまだに、彼の手に余った豪華クリスマスを負担してやっているのだ。

クリスマスは、僕が避けたいけれど止められない消費主義の乱痴気騒ぎと化している。僕は友人数人や僕の家族に、クリスマスがあまりに行き過ぎていると諭そうとしたけれど、イマイチ効果はなかった。僕は心からこの風潮を受け入れることなんてできない。妥協点を見出そうとしているけれど、誰も僕の努力など理解していないみたいだ。何人かは僕をスクルージ(『クリスマス・キャロル』の守銭奴の主人公)と呼ぶけれど、僕としては浦島太郎のほうがぴったりくると思う。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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