コラム

女性政治家を阻む「ガラスの天井」は危機下にもろくなる

2016年07月19日(火)10時30分

James Glossop-REUTERS

<企業や組織が危機に陥っている時には、女性トップの就任を妨げる「ガラスの天井」は消えるらしい。政治的混乱が続くイギリスでは今、首相からスコットランド指導部まで気が付けば女性だらけ>(写真は15日にスタージョン・スコットランド自治政府首相と会談するメイ新首相)

 トップに就くのを妨げる明らかな理由もないのに、女性たちがどういうわけかトップになれないことは、「ガラスの天井」という言葉でよく語られる。それでも女性がトップに上り詰めたら、「彼女はガラスの天井を打ち破った」と言われるものだ。

 僕はテレビで興味深いコメントを耳にした。あるコメンテーターが言っていたことだが、企業(あるいは国や政党)が危機に陥っているときには、どうやらガラスの天井は消え失せるというのだ。危機的な状況では、男性か女性かに関わらず最も適切な人をリーダーにしようとするからだという。

【参考記事】ボリス・ジョンソン英外相の嘆かわしい失言癖

 企業や国が混乱状態だから女性に目を向ける、という意味ではない。すべてがうまくいっているときは、彼らは概して男性を選ぼうとする。でも困難な状況下では、男性と女性の立ち位置は同等になる。ある女性がその職務に最適だったとしたら、彼女がトップに就くだろう。ところが平常時には、ほどほど信頼に足る男性がトップを引き継ぐ可能性が高い。

気付けば女性リーダーだらけ

 僕がこのコラムを書いている今、イギリスはちょうど、ブレグジット(イギリスのEU離脱)の任務を引き継ぐ新たな女性リーダー、テリーザ・メイを首相に選出したところだ。与党・保守党の党首選で最後まで彼女と争ったのも、やっぱり女性のアンドレア・リードサムだった。そして、メイの前任者でイギリス史上唯一の女性首相だったマーガレット・サッチャーも、経済的・社会的にイギリスが苦境にあった時代に党首に就任し、総選挙で勝利して首相になった。

 野党・労働党は大混乱状態で、こちらも女性のアンジェラ・イーグル下院議員が次期党首に選ばれるかもしれない。スコットランドでは、昨年のイギリスからの独立の是非を問う住民投票で、独立派の先頭に立って敗北したスコットランド民族党がその後、女性のニコラ・スタージョンを党首に選出した。保守党と労働党というイギリスの二大政党が、スコットランドで大きく支持を失っていたために、住民投票でスコットランドは独立まであと一歩、ということころまでいった。どちらの党も、今はスコットランドの党首に女性を起用している(成長株のスコットランド保守党ルース・デイビッドソン党首と、スコットランド労働党のケジア・ダグデール党首だ)。

 そんなわけでイギリス政界の現状をざっと見る限り、「危機下ではガラスの天井がもろくなる」の説には一理ありそうだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏、FRBへDOGEチーム派遣を検討=報道

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

アルコア、第2四半期の受注は好調 関税の影響まだ見
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story