コラム

「欧州の端」から世界を見詰めて

2015年02月19日(木)16時00分

 昨年、いつの間にか気付かないうちに、僕は重要な節目を通り過ぎていた。イギリスに帰国してからの年月が、アメリカで暮らした期間を超えていたのだ。

 このブログのこれまでのタイトルのように、十数年ぶりにイギリスに帰国してしばらくは何かと感覚がつかめず、慣れない国のように感じていた。でも実際のところ、少し前から僕は、自分がよそ者(stranger)であるかのような考え方はもうやめていた。もっとも、「イギリスを一度も離れたことがない」人みたいな感覚には、これからも決してならないだろうけれど。

 そんなわけだから、このブログのタイトルを「A Stranger in England」としておくのは、もう適切とは言えなそうだ。今でも僕はそのへんのイギリス人とはちょっと違う視点を持っていると思いたいのはやまやまだが、あいにく誰だって自分は一味違う人間だと思っているだろう。

■大陸は別ものという考え方

 新しい年は、タイトルを変えるいい機会だ。そこで思いついた新タイトルが、「Edge of Europe (ヨーロッパの端)」。そう決めたのにはいくつか理由がある。

 第一に、イギリス人が本当のところ、自分たちをヨーロッパの一部とは考えていないこと。これは、イギリス人のアイデンティティーの重要な要素だと僕は思う。イギリスはヨーロッパとは離れた島国で、フランスやイタリアなど地理的に近い国々よりも、アメリカやオーストラリアといった国とより強い文化的つながりを持っていると、僕たちは考えている。

 イギリスに住んでいると、休暇に「ヨーロッパに行ってくる」という言葉をよく耳にする。単にヨーロッパ大陸という意味で言っているわけではない。イギリス人は大陸ヨーロッパをイギリスとは別ものだと考えているのだ。

 ときどき僕は、ヨーロッパで起こっていることについてなぜ書かないのかと聞かれることがあった。それは、僕がヨーロッパについてよく知らず、僕にとっては慣れない場所だから。サッカー専門のスポーツ記者にチェスの記事を書かせるようなもの。むしろ僕は、ヨーロッパ(や他の外国)の出来事がイギリスにどう影響するか、というところに興味があるのだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ首都に夜通しドローン攻撃、23人負傷 鉄

ビジネス

GPIF、前年度運用収益は1.7兆円 5年連続のプ

ワールド

「最終提案」巡るハマスの決断、24時間以内に トラ

ビジネス

トランプ氏、10─12カ国に関税率通知開始と表明 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story