コラム

自虐ユーモアならイギリスに任せろ

2011年10月27日(木)12時03分

 パブで長年の友人と、気が滅入るようなおしゃべりをしていた。ロンドンの暴動、国会議員の経費スキャンダル、新聞社の盗聴事件、鉄道運賃の値上げ......。僕は、こんな国に住みたい人間なんているのだろうかと思い、友人にも聞いてみた。「イギリスにいいところなんてあるのか?」

 友人はにやりと笑って「生まれながらのウィットさ」と言い、しばらく席を離れた。1人になった僕は、しばらく考えを巡らせた。彼の言葉はただの軽口なんかじゃなく、真っ当な答えだとつくづく思った。そう、イギリス人は自虐ユーモアに走る傾向がある。とりわけ自分の国の有力政治家や大物たちを笑い飛ばすのだ。

 そのことについては、最近思うところが多かった。ちょうどイギリスの政治風刺雑誌「プライベート・アイ」が創刊50周年を迎え、メディアの注目を集めていたからだ。プライベート・アイはたぶん世界で一番おかしくて冴えている出版物。その50周年が話題になった理由の1つは、この雑誌が何年も生き残るなんて誰も考えていなかったからだ(おまけにこの雑誌は長年にわたって名誉棄損の裁判に大金をつぎ込まなければならなかった)。

 イギリスには古くから風刺の伝統があるが、プライベート・アイはその典型例だ。尊大で偉ぶった人間の鼻をへし折り、彼らの無能さや腐敗を暴いてきた。だが、ただの「怒り」として表現するわけではない。それを笑いにしてしまうのだ。

■人を殺しながら逃げる「ブレア」

 最近、テレビで『The Hunt for Tony Blair(トニー・ブレアを追え)』という素晴らしいコメディーが放送された。(元首相の)トニー・ブレアが前任者を殺して労働党党首の座に着き、その容疑が明るみに出るとさらに殺人を重ねながら逃走する、というストーリーだ。おかしかったのは「ブレア」が自分の置かれた状況を語るモノローグ。イラク侵攻や彼の犯したほかの失策を正当化した時とまったく同じような、言い訳がましい口調が笑える。

 たとえばホームレスの男に正体を気付かれ、彼を列車から突き落としたブレアは、哲学的な様子で言う。「誰かが命をなげうつのは悲しいことだ......しかし、彼を殺害するという最終的な私の決断は、正しいものだったと思う」。

 また、同僚2人を殺した容疑をかけられたブレアは、自分を憐れむように言う。「私はおそらく、世界で最も誤解されている人間だ」

 イギリスのテレビで必見の番組の1つは、その週に起きた出来事をコメディアンやコメンテーターがおもしろおかしく分かりやすく話し合う『Have I Got News for You?(すごいニュースを教えよう)』だ。『QI』も似たような番組で、以前、広島と長崎で二重に被爆して生き残った日本人の山口彊(つとむ)をジョークのネタにして問題視された。

 彼を笑いのネタにするなんて不適切だと、日本人が感じたのはよく理解できる。でも、ほかにもジョークのネタに選ばれている人が山ほどいることを日本人が知っていたら、少しは怒りも和らいだかもしれない、とも思った。

 僕たちはたくさんのことをジョークにするが、そのネタは大抵、悲しくて動揺するようなものが多い。

 こんなことわざがある。「笑え、さもなくば泣くしかなくなる」。これは僕自身にも当てはまる。イギリスの現状がひど過ぎると思える時もあるが、僕たちにウィットがある限り、なんとか生きていけるだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

規制・制度など「障害」の情報提供を、AI活用推進で

ワールド

トランプ氏、カナダとの新規橋梁巡り開通阻止を警告 

ワールド

米軍、東部太平洋で船舶攻撃 2人死亡

ワールド

シンガポール、今年の成長見通し上方修正 堅調な世界
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 4
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 9
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 10
    【銘柄】なぜ?「サイゼリヤ」の株価が上場来高値...…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 5
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story