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コリン・ジョイス Edge of Europe
ニューヨークで再会した小津安二郎
小津安二郎監督の映画に初めて出会ったのは1994年。僕の人生があまりうまくいっていない頃のことだ。日本語教師が彼の作品を紹介してくれたのだ。僕はすぐに、小津作品と恋に落ちた。
授業で『秋刀魚の味』のいくつかの場面を繰り返し観て、その会話を理解しようとしたのを覚えている。「ひょうたん」というあだ名の酔っ払った教師が、自分がどんな魚を食べたか分からなかったのに、鱧という漢字だけは知っているという場面。それから中年男が、年下の妻について友人たちにからかわれる場面。
何て温かみがあって、愉快で、興味をそそるんだろう。僕はそう思った。そして、宅配DVDサービスができるよりもずっと前の時代に、ある奇跡が起きた。『秋刀魚の味』に出会ってから約1カ月後に、全く同じ作品をイギリスのテレビ局が放映したのだ。録画して何度も観た僕は、この物語がこんなにも多くの感情をこれほど微妙に表現していることに打ちのめされた。
僕は、カーチェイス絡みの映画が大嫌いだ。アメリカ映画がメロドラマ風に展開し始めたときは、部屋を出て行くことだってある。
『秋刀魚の味』では、娘の結婚式の場面はすべて省略されている。それなのに父親の感情は痛いほど伝わってくる。それに僕は感激した。
何年も後になって、僕は自分が住んでいた東京・大田区で小津作品の多くが撮影されたと知ってびっくりした(例えば僕には、『秋刀魚の味』のワンシーンが池上線の駅で撮られたと分かる)。
長い前置きを許してほしい。実は先日、ニューヨークで開かれた上映会で小津作品と感激の再会を果たしたばかりなのだ。僕がこの街を愛するのは、こういう最高の時を味合わせてくれることこそだ。
2月22~27日にはロンドンでも小津作品の映画が上映されているが、僕はニューヨークで彼の無声映画のうち3つの作品を連日観られるという滅多にないチャンスに遭遇した。
何より素晴らしいのは、この上映会では3人の作曲家が小津作品に曲を書き下ろし、上映中に生演奏されたことだ。その上、このイベントの入場料は無料だった!
僕は、寒さと雪と戦いながら上映会が開かれたワールド・ファイナンシャル・センターを目指した。この場所では毎冬、数多くのカルチャーイベントが開催されている。
ここで映画の感想を述べるつもりはない。ただ、小津作品はすべて観る価値があるという僕の思いが、さらに強くなったということ以外は。
僕が今回面白いと思ったのは、作曲家たちがそれぞれ違った雰囲気の曲を提供したことだ。ローリー・ゴールドストンは『出来ごころ』に尺八の音を取り入れ、「日本的」な味付けをした。ウェイン・ホービッツは『東京の女』にジャズのリズムを添えた。小津のジャズ好きに応えたのだろう。ロビン・ホルコムは『その夜の妻』にぴったりの感情的な音楽を作曲した。
各々が小津作品に異なる反応を示していたのが興味深い。最近の映画には「曖昧さ」や「余韻」がないため、視聴者は皆同じような感想を抱くことになる。映画に操られているようで、僕はときどきイライラする。
『その夜の妻』では、1930年の丸の内を垣間見ることができて感動した(「一丁倫敦〔いっちょうロンドン〕」と呼ばれた時代について聞いたことはあったが見たのは初めてだった)。
この映画では病気の娘の治療代を手に入れるため男が強盗を犯すのだが、カメラがだんだん手袋に近づき、次に手形を大写しにした理由が結局分からなかった。(僕を含めて)観た人みんなが「彼が現場に手形を残したに違いない」と思っただろう。実際は、映画の中で手形の意味は明らかにされない。
『東京の女』を見た後、1人の男性が僕のところにやって来て最後の場面はどういう意味なのかと聞いてきた。カメラが突然、冗談交じりに会話する2人の記者を映すシーンだ。この男性は、きっとこういう意味だと巧妙な自説を展開した。その説は面白かったものの明らかに違っていた。
僕はすっかり小津に始めて会った頃に戻っていた。彼の作品についてもっと観たくなり、見ては考え、一呼吸おいて、再び小津の世界に思いをめぐらせるのだった。
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