コラム

「障がい差別社会」に移民受け入れの覚悟はあるか?

2015年11月24日(火)15時20分

 ワタクシ自身は社会に多様性があることは大いに結構と思っていますが、移民は決して単なる安い労働力ではありません。彼等にも私たちと同じように感情があり、よりよい生活を求める気持ちがあります。彼らには日本に来てよかったと思ってもらわなくては来てもらう意味がありません。

 現状の日本の移民政策の行きつく先に国家としてのグランド・デザインは描けているのか。

 問題発言をしたご当人のインタビュー記事がありました。「巨匠たちは人間的なやさしさというもの――度量の深さみたいなものを持っているのだなあということを思いました。」それを巨匠とのインタビューから学んだというのですが、今回の発言とは対極にある感想です。ワタクシの限られた人間関係の中での話が全てに当てはまるというつもりはありませんが、芸術家の方、あるいはその関係者は誰よりも多様性を重んじる方が多いと感じます。障がいを抱えながらも素晴らしい絵の才能を開花させてきた画家は少なからずいて、そうした才能が世に溢れていればこそご自身の画廊としてのキャリアだって成り立ってきた部分があるはず。自己否定に繋がるところまで思慮が辿り着かず、発言撤回の文面でようやく気が付いた様子が見受けられますが、それではあまりにお粗末です。

 弱者を蔑ろにすれば、それがやがては社会の疲弊へと繋がる、強者の自分とは関係ないなど高をくくって過ごせるような問題でもない、ということ。今回のテロと茨城の問題は一見関係なさそうに見えるかもしれませんが、社会の中で最も弱い立場の人を支え、ボトムアップすることが社会全体の安定に繋がること、多様性を排除しない意義・意味は細部にまで宿ると思われます。

 自分と障がい者とされる彼らといったいどちらが優れているのかと問われれば、ワタクシの方が人間として劣っているのではないか思うことの方がしばしばですが、そう心から思うようになったのも彼らときちんと向き合う時間が増えたからこそ。今回の発言の当事者、関係者は日々の生活の中で多様な人たちと接触する機会がこれまで少なかったのではないでしょうか。発言が問題ないとした知事も含め、支援施設に足繁く通うなど、是非、弱者と触れ合っていただき、多様性をまずは知っていただきたいものです。前言撤回、当事者の辞任だけで済まされる問題では決してないのですから。そして国家のグランド・デザインの致命的な欠如についても、これを機会に是非考えていただきたいと思うのです。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、AUKUS見直し 豪州の原潜購入に影

ワールド

ポーランド下院、トゥスク首相率いる親EU連立政権の

ワールド

米、イラク大使館の退避準備 バーレーンなどからも一

ビジネス

BofA、第2四半期トレーディング収入は1桁台半ば
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 2
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 5
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 6
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 7
    【クイズ】今日は満月...6月の満月が「ストロベリー…
  • 8
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 9
    みるみる傾く船体、乗客は次々と海に...バリ島近海で…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 4
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 7
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 8
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 9
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story