コラム

「障がい差別社会」に移民受け入れの覚悟はあるか?

2015年11月24日(火)15時20分

 そもそもこうした支援の場に経済効率的発想を持ち込むのは全くの筋違いで、持ち込んではいけない分野がこの社会にはあるはず。大変な現場であるからこそ、教職員の数も彼らへの手当も充実させる必要があります。コストカットでカツカツになった人たちに他者への配慮をしろと言っても今度は教職員の側が参ってしまいます。余裕があればこそ人にも余裕を持って接することが出来る、人間はそんなに完璧ではありません。

 ワタクシは団塊ジュニアとほぼ重なる世代で、団塊の世代ほどではありませんが公立の中高時代、クラスは大人数で40名を下回ったことがありませんでした。当時はやがて少子化となれば、少人数クラスが実現し一人一人の生徒に合った、もっと余裕のある充実した授業になると言われたものでした。ところがいざ、少子化になると、少なくなった若い世代の教育を大切にするどころか、ここでもコストカットが横行する始末。

 例えば我が国の教育機関に対する公財政支出(国及び地方政府が教育機関に対して支出した学校教育費及び教育行政費、奨学金は含まない)の対GDP比は、OECD加盟国(31か国)中最下位となっていることは平成24年版子ども・子育て白書でも指摘されています。こうした国際比較をすれば教育費の拡充こそすれ削減はありえないはずですが、財政健全化計画の名の下に教員人件費の国庫負担削減額などを盛り込むというのですから、日本の国家としてのグランド・デザインはいったいどこにあるのかと首をかしげるばかりです。健常者の教育現場の余波は当然、弱者の教育・支援現場にも及んできます。

 弱者を蔑ろにすることの延長には何があるか。今回のパリの事件が起こる前、今年の1月にフランス・パリにある風刺週刊誌「シャルリー・エブド」本社を襲撃する事件が発生しました。繰り返しになりますが、テロを肯定しているわけでは全くありませんし、いかなるテロ・戦争も強く糾弾する立場であるのに変わりはありません。その問題とは切り離して、テロ実行犯はフランスで生まれ育った移民の兄弟であり、社会的弱者としてのそのあまりに過酷な生い立ちに驚き、最初はネット上の風説の流布かと疑う程でしたが、「シャルリー・エブド事件を考える ふらんす特別編集」にも同様の解説があるのを確認しました。

 現在、フランスで暮らすマグレブ系移民の2世(殆どの場合、親の出身国とフランスの二重国籍)の男子は約35%、女子は約25%が数世帯前からのフランス人と結婚しており、こうした数値は英米よりも遥かに高くなっています。自分の子供がアラブ系配偶者を持つのは嫌だというフランス人は27%という比較的低い水準で、若い世代の5人に1人の親は外国籍。移民差別は社会的現実として存在しますが、しばしば日本で想像されているような形のとんでもない排除が行われているわけではなく、民族の混ざり合いが進んでいるのがフランスです。そして、社会保障そのものが日本とは比較にならないほど充実している中で、社会的給付等の平等性は外国籍の合法移民にも保障されています。それでもなお問題が発生しているのです。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

金利先高観から「下期偏重」で円債買い、年間残高は減

ワールド

米ロ首脳会談、開催に遅れも 準備会合が延期=CNN

ビジネス

英アーム、ライセンス提供を最新のAIプラットフォー

ワールド

高市首相を衆参選出、初の女性宰相 維新との連立政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story