コラム

「誰もが中国に恋をする」─ 中国、原発を使い外交攻勢

2015年11月05日(木)17時10分

懸念は広がるが、それでも中国に接近

 もちろん英国内に、中国との関係強化を懸念する声はある。チャールズ皇太子は全行事を欠席した。また英国の保守系の新聞ロンドン・タイムズは10月24日、諜報当局が政府に対して、ブラッドウェル原発がロンドンからわずか80キロにあること、新型炉の安全性、また電力システムを通じた中国の情報収拾の可能性を取り上げ、「安全保障上の懸念がある」と警告した、と伝えた。

 また英紙ガーディアンは10月16日、「外国企業が英国の税金で利益を上げるのはおかしい」という、野党労働党の声を伝えている。

 21日のキャメロン英首相と習近平国家主席の共同記者会見では「英国民は民主主義がなく、不透明で人権に大きな問題を抱えた国とのビジネスが拡大することを、なぜ喜ばなければならないのでしょうか」という英国BBCの記者の質問がテレビ中継された。キャメロン氏は苦い表情で「人権か、ビジネスかという質問の前提にはまったく賛成できない。経済関係が強固になれば双方の関係も深まり、それ以外の問題でも率直な議論ができるようになる」と反論した。

 習氏は「われわれは現実に即した人権発展の道を見つけた」と質問をはぐらかし、「英中両国は21世紀に戦略的提携を確立し、共に黄金時代を開く」とし、「原発投資はその柱」と強調した。危うさを承知しながら、英仏は中国にすり寄っているようだ。

「誰もが中国に恋をするが、中国は誰にも恋をしない」

 「誰もが中国に恋をするが、中国は誰にも恋をしない」という米国の外交格言があるそうだ。前段は中国がそのエキゾチックで芳醇な文化で世界を魅了すること、後段は中国政府も中国人も自分中心で他人になびかないことを示す。現代の中国もその資金力で世界各国を魅了しているが、決して他国のために働くわけではない。

 そして英仏の姿は日本にも参考になるだろう。英国は1960年代まで、世界の原子力産業のリーダーだった。ところが米国、その後の日仏の積極的な原子力建設に押され、その産業は縮小してしまう。また同国は1990年代に電力自由化を行った。発電会社は長期的には採算が取れても、初期投資が巨額な原発の建設に難色を示すようになった。

 英国は、今回の原発建設では日本の再エネで使われている固定価格買い取り制度(FIT
)を原子力に適用する。電力料金の中に原子力の建設費用を含ませ、原発事業者の発電の買い取り価格を事前に決め投資リスクを軽減させる。しかしヒンクリーポイント原発では、EDFとの間で35年間、16.5円/kWh程度で買い取る方針という。原発の発電単価は国際的に4−5円/kWh程度だ。買い取り価格はそれより明らかに高く、国内でそれが正しい政策か議論になっている。

 原子力産業をなくし、また先を見通さずにエネルギー自由化をすると、後になって、国民負担が厳しくなる。英国の現状はその危うさを示しているだろう。これは日本に参考になる。

 技術力、質の高さを世界に誇った日本の原子力産業、そして電力産業は福島原発事故の影響で、傷つき苦しんでいる。その状況なのに政府は原子力産業を政策的に冷遇し、電力自由化を進めている。政策の舵取りに失敗すれば、他国にエネルギー産業を握られてしまうことが、英国の例から分かる。

 もちろん福島原発事故という原子力・電力産業の失態がこの現状の背景にある。その事実への批判、そして当事者の反省は必要だ。しかし、日本のエネルギー・原子力政策が長期に混乱したことで、中国の原子力産業と政府は利益を得ている。その現実も私たちは知るべきだ。

 私は中国への「恋」の感情はわかない。敗北の現実へのいらだちと、もどかしさが募る。


プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

ニュース速報

ビジネス

SBIと東和銀行が戦略的業務提携、地元向け共同ファ

ビジネス

英小売売上高、第3四半期は記録的伸び 感染再拡大で

ビジネス

東証に立ち入り検査、金融相「行政処分は結果踏まえ判

ビジネス

焦点:米金融機関、コロナ支援策の不正問題で規制に戦

MAGAZINE

特集:日本人が知らないワクチン戦争

2020-10・27号(10/20発売)

全世界が先を争う新型コロナのワクチン確保 ── その最前線と日本の開発が遅れた本当の理由

人気ランキング

  • 1

    インドネシア大統領ジョコ、米国の哨戒機給油要請を拒否

  • 2

    スリランカが日本支援のライトレール計画を中止したのは......

  • 3

    菅首相、訪問先のインドネシアで500億円の円借款供与 ジョコ大統領と安保、医療でも協力を決めたが──

  • 4

    新型コロナ、スウェーデンは高齢者を犠牲にしたのか

  • 5

    北朝鮮の新型ICBMは巨大な張りぼてなのか?

  • 6

    台湾近くに極超音速ミサイル「東風17号」を配備した…

  • 7

    「新型コロナウイルス、絶滅する可能性は低く『永久的…

  • 8

    返済が一生終わらない......日本を押しつぶす住宅ロ…

  • 9

    台湾当局「中国の『フーリガン』外交官恐れず建国記…

  • 10

    6割が不詳・死亡などの「不安定進路」という人文系博…

  • 1

    スリランカが日本支援のライトレール計画を中止したのは......

  • 2

    習近平、中国海兵隊に号令「戦争に備えよ」

  • 3

    中国のネットから消された「千人計画」と日本学術会議研究者たち

  • 4

    在韓米軍、駐留費引き上げで合意なければ韓国人職員9…

  • 5

    アフリカ支援を渋りはじめた中国──蜜月の終わりか

  • 6

    トランプ「土壇場の大逆転」2度目は空振り? 前回と…

  • 7

    韓国は中国を気づかって、米日豪印4ヶ国連携「クアッ…

  • 8

    インドネシア大統領ジョコ、米国の哨戒機給油要請を…

  • 9

    菅首相、訪問先のインドネシアで500億円の円借款供与…

  • 10

    グアムを「州に格上げ」して中国に対抗せよ

  • 1

    中国人民解放軍、グアムの米空軍基地標的とみられる模擬攻撃の動画公開

  • 2

    スリランカが日本支援のライトレール計画を中止したのは......

  • 3

    韓国ネット民、旭日旗めぐりなぜかフィリピンと対立し大炎上に

  • 4

    日本学術会議は最後に大きな仕事をした

  • 5

    金正恩「女子大生クラブ」主要メンバー6人を公開処刑

  • 6

    習近平、中国海兵隊に号令「戦争に備えよ」

  • 7

    その数333基、世界一のダム輸出国・中国の「無責任」

  • 8

    注意喚起、 猛毒を持つふさふさの毛虫が米バージニア…

  • 9

    日本がついに動く実物大のガンダムを建造、ファンに…

  • 10

    中国のネットから消された「千人計画」と日本学術会…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!