コラム

DHCと虎ノ門ニュースが残した厄介な「右派市場」

2023年02月04日(土)19時06分

右派の「ピーク」は再来するか

私もかつて、本誌に掲載したルポで、DHCテレビを取材したことがある。虎ノ門駅から程近いビルの一角にある、ガラス張りのスタジオにはYouTubeでも配信される『虎ノ門ニュース』を生で見ようと数十人の人が足を止めていた。

同社の山田晃社長(当時)は「韓国も中国も、それって普通に考えておかしくない?ってことが多いじゃないですか。それを『普通の人』の感覚を大事にして、分かりやすく、面白く伝える」ことを大切にしているのだ、と堂々と語っていた。彼らの内容が面白いとはおよそ思えなかったが、出社途中とおぼしきスーツ姿の人々が足を止め、熱心に聞いている様子を見ると、山田氏の自信も分かる気がした。

吉田氏が無邪気に記すように、マスメディアには報じられていない真実がインターネットにはある、と考える「普通の人々」は、今でも決して少なくないということだ。

強硬な右派層を支持基盤とする故安倍晋三という政治家が政権のトップに立っていた時、彼らの勢いはピークに達したことも忘れてはいけない。ひとつの時代は終わったが、吉田氏が切り開いた言論マーケットという厄介な問題は残る。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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