コラム

愛知のリコール不正騒動はまだ終わっていない

2023年07月14日(金)17時23分
あいちトリエンナーレ、リコール、名古屋、捜査

リコール署名簿を押収する捜査員(2021年、時事通信フォト)

<忘れられたニュースを問う石戸諭氏のコラム。愛知県で河村たかし名古屋市長、高須克弥氏らが起こしたリコール不正の騒動は総括されず、河村氏は愛知政界で新たな「賭け」に出つつある>

愛知県で起きたリコール不正事件は全国的な報道は下火になったものの、今でも地方政界を揺るがしている。事の発端から整理していこう。

インターネット上の右派を中心に、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展『表現の不自由展・その後』の展示内容とそれへの公金の支出を問題視する声が広がった。それを受け、著名医師で右派のインフルエンサーでもある高須克弥氏が呼びかけ人となり、大村秀章・愛知県知事の解職を求めて署名が集められた。フォロワーを多く持つ右派系文化人がそのファン層の賛同を取り付けただけならば、よくあるネット上の署名運動で終わっただろう。

だがこの一件は現実の政治闘争に使われたことで注目を集めることになった。大村氏との対立が伝えられてきた河村たかし・名古屋市長がリコール署名運動を支持して旗振り役を買って出たのだ。運動はやがて「民意の偽造」問題に発展していく。

不正の責任を一様に否定

わずか数カ月で高須氏らは署名運動の停止を発表し、その時点で集まった43万5000筆強を提出したが、リコールに必要な数には遠く及んでいなかった。さらに、その後の調査でこの中に多数の偽造が含まれていることが明らかになったのだ。

リコール運動の事務局長を務め、衆院選への立候補を予定していた男性が署名の集まらない現実に焦り、名古屋市内の広告関連会社に署名書き写しを依頼したという。この一件が報じられると、高須氏や右派系インフルエンサーらは「自分は知らなかった」と繰り返し発信した。

問題はそこからだ。旗振り役だった河村氏も彼らと同様に自分には責任がないことを強調し、大村氏との対立を続ける姿勢を崩さなかった。

大村氏は今年の統一地方選で署名運動に関わった候補者らを破り愛知県知事選で4選を果たしたが、得票数そのものは減った。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶

ワールド

タイ、2月8日に総選挙 選管が発表

ワールド

フィリピン、中国に抗議へ 南シナ海で漁師負傷

ビジネス

ユーロ圏鉱工業生産、10月は前月比・前年比とも伸び
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story