コラム

自画自賛する「コロナの女王」本にサイエンスはあるか?

2022年03月17日(木)12時00分

イベルメクチンに対する幻想

当時の知見では仕方ない主張だったとの見方は成り立つが、私が取材した範囲では、当時でも実際に患者の治療に当たっていた医療従事者の多くは懐疑的な見方を示していた。現在の知見ではどうだろうか。BBCのファクトチェックグループの検証記事(「イベルメクチン、誤った科学が生んだ新型ウイルス『特効薬』」)のように、製造しているメーカーですら新型コロナウイルスへの「治療効果の可能性を示す科学的根拠は何もない」と断言し、検証した専門家は「臨床試験の中に、『明らかな捏造の兆候あるいは研究を無効にするほどの重大な誤り』を含まないものは『1つもなかった』」とまで語っている。

岡田氏が主張するような「サイエンス」の考えからすれば、イベルメクチンに対する幻想は振り払わないといけないものの1つだ。だが、本書にはアップデートされた記述はなく、楽観的な専門家に対比して未曽有の危機に立ち向かい、リスクを取ってメディアで発言する岡田氏の姿がヒロイックに描かれるばかりだ。

私も尾身氏をはじめ分科会に名を連ねる専門家の施策に100%賛同はしていないし、随所で批判してきた。それでも本書を読んで思うのは、モーニングショーを含め彼らの主張どおりに対策しても、うまくいかなかっただろうということである。

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プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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