コラム

中国とドイツの関係悪化、EUの対中戦略の根本変化...なぜ台湾問題は欧州をここまで突き動かすのか?

2025年11月13日(木)16時35分

ただ、産業界は複雑だった。報復を懸念して、抑制的な対応を期待していた。当時、中道左派の連立政権を率いるオラフ・ショルツ首相(社会民主党)も、北京との対話を優先し、より慎重な姿勢を見せていた。

しかし、識者やメディアは、「独裁的な権威主義国家は経済やエネルギーを政治的な武器として使い、いかに私たちを意のままにしようとするか、主権を脅かすか」を主張した。それはロシアがガスというエネルギーを利用してきたのと同じだった。ロシアにガスを深く依存していたドイツ人は、ウクライナ戦争が始まって以来高騰するエネルギー価格に苦しんでおり、身に迫る問題だったのだ。

この世論に、ショルツ首相もドイツ産業連盟(BDI、ドイツの経団連)も説得された。しかし経済に与える不安は払拭できず、デカップリング(両者の分断)は望まないものの、デリスキング(リスクの軽減化)は必要だという戦略となった。

この事件はEUの団結を促す結果にもなり、2023年にEUでは「反威圧措置」規則が発効した。このときからEUの中国戦略は根本的に変化した。EUは(ドイツも)「一つの中国」を決して否定していないが、デリスキングの方向へと舵を切った。

こうして欧州で台湾問題は、国の大小に関わらず民主主義を守るという、一種の「象徴」となっているのだ。

経済政策と防衛政策の統合という戦略

ドイツ政府は、中国と対話を続ける努力をする一方で、今や明確に、経済政策と防衛政策を統合する必要があると考えている。

今年に入って、中国によって4月と10月の二度にわたるレアアース輸出規制問題が起きた。さらに10月、中国政府が、オランダに本社を置くネクスペリア社の中国で製造された半導体の輸出を禁止した問題も起きた。どちらもEU経済に大きなショックと混乱を与え、ドイツ経済への影響は特に大きい。

「一時休戦」は、戦術は変えても、戦略の思考に大きな影響は与えないだろう。ドイツは「経済的安全保障は国家安全保障である」という考えをますます強めてきている。EUも三つの大きな戦略を進めている。

折しも11月7日、日本の衆院予算委員会で、台湾有事と日本の立場に関する問題が取り上げられた。日本人は今後どうしていきたいのだろうか。

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、地政学リスク過小評価に警鐘 銀行規制緩和に

ワールド

ロシアの石油輸出収入、10月も減少=IEA

ビジネス

アングル:AI相場で広がる物色、日本勢に追い風 日

ワールド

中国外務省、高市首相に「悪質な」発言の撤回要求
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story