コラム

ノートルダム大火災の悪夢に今もうなされ続けるフランスの闇

2019年11月27日(水)16時20分

火災後、初めてのミサが行われたノートルダム大聖堂(6月15日)  Benoit Tessier-REUTERS

<10月末、フランス南西部のバイヨンヌという街のモスクを襲撃した犯人は「これはノートルダムの復讐だ」「あの火災はイスラム教徒の放火だ」と叫んだ。それは、それを言ったらおしまいと皆が胸に秘めていた言葉だった──>

フランスで、イスラム教のモスクでテロが起きた。

ある白人男性が、モスクの扉に火をつけようとし、中から出てきたイスラム教の信者である70代の男性2人に発砲して重症を負わせたのである。10月28日のことである。

この事件は、奥深い大きなショックを人々に与えた。

なぜかというと、犯人は「ノートルダム大聖堂の復讐だ」「あの火事は、イスラム教徒のコミュニティのメンバーによる放火だった」と言ったのだ。


メディアや人々の対処は、表面は冷静だ。この発言に対して大騒ぎはしていない。でも、とうとう公に、その言葉が語られる時が来てしまった。このショックは、大変静かだが、不気味で巨大な波紋を投げかけたと感じる。

犯人は極右政党の立候補者

事件は、フランス南西部のピレネー・アトランティック地方にあるバイヨンヌという街で起きた。

逮捕されたのは、84歳のクロード・サンケという男である。1935年生まれ。教育省の役人を退職したあと、木に彫刻を施した大型のランプをつくっていた。

近隣住民は「このような事件を起こしても、ちっとも驚かない」

「家に武器をもっていて、それを人に見せさえした。最近では頭の調子がおかしかった」と証言している。

他にも、彼はとても孤独な老人で、孫はたまに来るが、息子はほとんど来ないという証言もあった。強迫観念にとりつかれていて、 時々とても暴力的だったという。時々市庁舎にやってきては、様々な苦情を訴えた。市長をひどい言葉で攻撃したこともあると、関係者は語る。

2015年には、地方選挙で、極右と呼ばれた「国民戦線」(FN)から立候補して、落選した。

国民戦線は2018年に「国民連合」と名前を変えて、マイルド路線を意識している。女性党首のマリーヌ・ルペンは、コメントを求められて、「このテロは『言うに堪えない(ひどい)行為だ』と言った」。

彼女の父親で党の創設者のマリー・ルペンだったら、むしろ犯人を擁護する発言をしたかもしれないが。

なぜノートルダム火災は起きたのか

これは人々の心に棘のようにひっかかっている問題である。

公式発表では、今もって火災の原因を特定していない。工事の人たちが規則に反してたばこを吸うことがあったのは認めたが、それが原因とはなっていない。電気系統のトラブルもいまだに調査中である。

現段階での調査報告は、火災報知器が鳴ったというのに防災体制はどうだったのか、火災の広がりを防げなかった責任の所在はどこにあるかに焦点があたっている。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、来週にもベネズエラ制裁さらに解除=ベセント氏

ワールド

吉村・維新の会代表、冒頭解散「驚きない」 高市氏と

ワールド

イラン当局、騒乱拡大で取り締まり強化示唆 ネット遮

ビジネス

決算シーズン幕開け、インフレ指標にも注目=今週の米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画をネット民冷笑...「本当に痛々しい」
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 7
    決死の嘘が救ったクリムトの肖像画 ──ナチスの迫害を…
  • 8
    美男美女と話題も「大失敗」との声も...実写版『塔の…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story