コラム

ロシアが仕掛ける「影の戦争」──進化するハイブリッド脅威と日本の脆弱性

2026年02月19日(木)14時22分

Center for European Policy Analysis(CEPA)が、2025年11月に公表した『War Without End: Russia's Shadow Warfare』で用いた「Shadow Warfare」という言葉は、現代のハイブリッド脅威と本質的に重なる概念である。このレポートはソ連時代まで遡って分析している点に特徴がある。

ハイブリッド脅威に関心のある方には必読かもしれない。もっとも、同報告が特に強調している追加要素は『人質外交』である。近年ロシアは、渡航者や在住外国人を拘束し、外交交渉の材料として利用している。人質は人的資源であると同時に、低コストで高い交渉価値を持つ戦略資産となっている。

ちなみに10年近く前から大西洋評議会の『The Kremlin's Trojan Horses』3部作は影響工作を知りたい人には必読と言っているが、いまだに読んだ人にお目にかかったことがない。驚くほど読まれていない。

進化の本質 3つのポイント

ハイブリッド脅威の変化のうちで特に重要なのは次の3点である。

1.複合性

ほとんどのハイブリッド脅威は複数手段の組み合わせであり、単独分析は戦略的意味を持たない。サイバー攻撃、認知戦、ドローン攻撃を個別に分析しても、最終目標や相互作用は見えない。サイバー攻撃ですら、相手国の能動的サイバー防御を誘導して別領域の効果を高めるための手段である可能性がある。

2.国内と国外のシームレス化

ハイブリッド脅威が「使い捨て工作員」として利用するのは操りやすい相手国内の個人である。「使い捨て工作員」の動機の多くは金だ。金が手に入るなら、多少危険そうな仕事を引き受ける人間を簡単にリクルートできる環境がある国が多い。

ハイブリッド脅威は国外からの干渉だが、実行部隊は国内の人間なので、国外の問題と国内の問題がシームレスにつながった問題になっている。

しかし、多くの国では国外問題に対処する部局と、国内問題に対処する部局は異なっている。
ギグ経済の拡大はこの構造を加速させる。オンライン・プラットフォーム経由で仕事を請け負うギグ経済の仕組みは利便性をもたらす一方、違法行為のリクルートにも使われている。日本で話題になった「闇バイト」は、そのひとつだ。

3.非対称性と「失敗しない」戦い

ハイブリッド脅威の目的は弱体化と不安定化である。気候変動や技術変化による社会的影響が増大する現代では、外部から小規模な圧力を加えるだけで政府コストは増大する。予防されても、妨害されても、暴露されても、相手にコストを強いれば一定の成果となる。ここに現在のハイブリッド脅威の本質がある。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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