コラム

「AIファクトチェック」はもはや幻想? 非常時に裏切るチャットボットの正体

2025年07月08日(火)16時31分
AIは平時の応答で人間を信用させ、非常時に裏切る

CL STOCK -shutterstock-

<米国で拡散した抗議デマ、偽の兵士画像、陰謀論――真偽を確かめようとAIに頼った人々が得たのは、さらに深い混乱だった>

現在、アメリカ各地――とくにロサンゼルスを中心に――で、トランプ政権に反対する抗議活動が広がっている。このような社会的混乱に乗じて、陰謀論や偽情報がSNS上で次々と投稿されている状況である。

厄介なのは、アメリカの主要SNSプラットフォームがここ数年、「表現の自由」の名のもとに投稿のモデレーション(監視)を緩めてきた点である。これにより、本来なら削除されていたはずの虚偽情報が削除されずに拡散されてしまうケースが増えている。

ボロを出したAIチャットボット


抗議活動をめぐるSNS投稿を見て、「この情報は本当なのか?」と疑問を抱いた人々も多い。そのようなユーザーは、真偽を確かめるためにGrokやChatGPTといったAIチャットボットに確認を依頼するようになってきた。

以前はGoogleなどの検索エンジンを使っていたが、現在では、要点をまとめて即座に回答してくれるAIチャットボットが広く利用されているのである。

さらに事態をややこしくしているのが、AIが生成した偽の画像や映像の急増である。ニュースやSNSで流れる事件・事故の画像を見ても、それがAIによって作られたフェイクである可能性が常につきまとうようになった。

その結果、逆に本物の画像すら「AI生成の偽画像ではないか」と疑われる事態も多発している。

実際、今回の抗議活動でもそのような混乱が起きている。たとえば、サンフランシスコ・クロニクル誌が兵士の写真(本物)を掲載し、それをカリフォルニア州知事がX(旧Twitter)で共有したところ、「この写真はAIが作った偽画像だ」との批判が相次いだ。

この写真について、一部のユーザーがXのAIチャットボット「Grok」や「ChatGPT」に真偽を尋ねたところ、両者とも「偽画像である可能性が高い」と回答した。繰り返すが、この写真は完全に本物であった。後日、Grokは誤りを認め、謝罪していることがTIME誌によって報じられている。


プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米12月雇用、予想下回る5万人増 失業率4.4%に

ワールド

NATOトップ、米国務長官と電話協議 北極圏安保の

ワールド

ベネズエラ、米との外交再構築を模索 米高官がカラカ

ビジネス

アトランタ連銀総裁「インフレ依然高すぎ」、FRBの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「不法移民からアメリカを守る」ICEが市民を射殺、証…
  • 6
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 7
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 8
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 9
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 8
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 9
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 10
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story