コラム

台湾併合をみすえて暗躍する中国国家安全部

2023年06月13日(火)14時07分

台湾併合に向けた動き

これまで見てきたように中国においては軍民の区別はなく、全てが国家のために統合的に活用されている。超限戦、ハイブリッド戦あるいは全領域の戦いといった表現をよく見かけるようになったが、日本はもちろんアメリカなど民主主義を標榜する国では、それらに充分に対応できていない。

今回取り上げたMSSは最近台湾に対して活発に仕掛けている。以前書いたように軍事侵攻は中国のオプションのひとつだが、現在優先されている選択肢ではない。しかし、なんらかの形で台湾併合を進めるのは確実である。

中国と緊張状態が続いているインドは2021年以降、継続的に電力インフラを狙った中国からのサイバー攻撃を受けている。その内容から中国のPLAおよびMSSの関与が疑われている。台湾でも2020年に国営エネルギー企業がMSS由来のサイバー攻撃を受けている。重要インフラをターゲットにするのは基本的な手順であり、台湾も同じように狙われ続けている。

また、2021年から活動しているVolt Typhoonと呼ばれる中国由来のグループがアメリカを中心とした国々の重要インフラをターゲットにしていることも報告されており、中国の台湾併合との関係が指摘されている。

台湾の重要インフラやネットワーク事業者やマネージドサービスプロバイダ(MSP)、クラウドサービス、VPNプロバイダはターゲットになっているだろう。ただし、軍事侵攻をともなわない併合が最優先オプションである限りは台湾の市民に甚大な影響を与える攻撃は控え(レッドラインは超えないように抑える)、多くは秘匿されたままでいくつかが示威的に露見される程度と考えられる。

台湾有事あるいは併合が現実になれば日本も他人事ではないのだが、いまだに危機意識は低いままだ。中国で国内企業に対して情報提供を義務づけた国情法が制定された後もTikTokは使われ続け、安価な中国製ヘルスメーターと連動するアプリはダウンロードされ、安価な中国製スマホも販売されている。アメリカと日本の個人情報の80%あるいは成人のほぼ100%が中国に把握されているといった指摘もあるくらいだ。日常生活が否応なく戦場と化している時代である以上、我々の日常と意識も変化せざるを得ないのかもしれない。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:米撤退ならイランがエネルギー供給掌握へ、攻撃

ビジネス

テスラが日本で販売強化、燃料・物価高追い風 6人乗

ビジネス

日銀版需給ギャップ、25年10―12月期は+0.6

ワールド

米内務省、人員削減へ 効率化計画の一環
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受給年齢」
  • 4
    破産申請の理由の4割以上が「関税コスト」...トラン…
  • 5
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 6
    満を持して行われたトランプの演説は「期待外れ」...…
  • 7
    日本の男女の賃金格差は世界でも突出して大きい
  • 8
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 9
    先進国が出生数の減少を嘆く必要はない? 「経済的…
  • 10
    「一般市民に敵意なし」...イラン大統領が米国民宛て…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story