コラム

産業化し国家と結びつくサイバー犯罪者たち 2022年サイバー空間の脅威予測

2021年12月01日(水)18時01分

注意が必要な国家としては、ロシア、イラン、中国、北朝鮮があげられていた。日本ではイランのサイバー攻撃についてはあまり知られていないが、つい先日も選挙への介入を行ったイラン人ハッカーが起訴された

主要なものを表にすると下記になる。個々の項目について、ご紹介していきたい。ただし、項目には分けたもののそれぞれが密接に関係しており、独立した事象はほとんどないと言っていいだろう。たとえば、ランサムウェアは配布チェーンを使って配布され、サプライチェーン攻撃やOTへの攻撃に利用される。

拡大、機能分化、標準化の進むランサムウェア産業

エコシステムあるいは産業として発展を続けており、被害者も増加の一途である。チェックポイントソフトウェアテクノロジーズによれば、2021年5月、米国の保険会社がハッカーに4,000万ドルの身代金を支払っており、2022年には身代金の金額はさらに増加し、被害者の数も増加する。

ビジネスモデルはRaaS(ランサムウェアアズアサービス)による二重恐喝型が主流であり、役割による分化が進んでいる。EmotetやIcedID、TrickBotなどのマルウェアファミリーはそのビジネスを配布ネットワークの提供へとシフトし、ランサムウェアをクライアントに届けるディストリビューターとなった(ソフォス)。ブラックベリー社のレポートによると、Zebra 2104は、ランサムウェアの運営者に一部の被害者への最初の侵入の足がかりを提供している(カスペルスキー)。

こうした一連の変化によって、2022年にはRaaS業界の中心はランサムウェアをコントロールする側(管理、運営側)から、被害者のネットワーク(配布、アフィリエイター)をコントロールする側へとシフトする(マカフィー)。また、アクター間での争いも起こり、被害者がとばっちりを受ける事態も予想される(マンディアント)。

規模の拡大や機能分化と並行して標準化も進んでいる。2021年にConti RaaSのアフィリエイター向けの資料が公開され、異なる攻撃者グループがこのドキュメントに沿った戦術、技術、手順(tactics,techniques and procedures = TTP)に沿って攻撃を実行していたことが明らかになった。

こうした動きに対して、法制度などの整備、強化が進むことも予想されている。ランサムウェアの支払い、交渉を規制する法律を持つ国家の割合は、2021年には1%未満だったが、 2025年末には30%にまで上昇する(ガートナー)。また、政府は被害者が身代金を支払うのを抑制するために、みせしめに身代金を支払った組織を処罰する可能性がある(マンディアント)。

アメリカではサイバー関連の規制を強化する超党派の動きが活発になっているが、その一方で批判もあり、先行きは不透明だ。いずれにしても規制強化の方向は間違いないだろう。

なお、ランサムウェアの脅迫者との交渉を請け負う交渉代理会社も増加している。

クラウド

企業や官公庁で利用の広がるクラウドは格好の攻撃対象となっており、脆弱性を突いた大規模な攻撃が行われる(チェックポイント)。データ漏洩や悪用は今後も増加すると予想されており(マンディアント)、爆発的に増加する可能性がある(カスペルスキー)。

AI

ディープフェイクやディープフェイク・オーディオは世論操作や株価操作や詐欺などに用いられている(チェックポイント)。ディープフェイクによって多要素認証(MFA)セキュリティプロトコルや顧客認証(KYC)の本人確認手段を回避した事例も出て来た。2022年以降、ディープフェイク技術は広く普及し、犯罪者やスパイはソーシャルエンジニアリングをより説得力のあるものにしたり、特定のターゲットに合わせたコンテンツを生成したり、自動ID認証システムを破るために利用するようになる(マンディアント)。

AIはサイバー攻撃および攻撃の検出に用いられるようになり、攻撃側と防御側双方にとってなくてはならないものとなった。この分野では2つの革新の可能性がある(ソフォス)。1つは、ユーザー視点の機械学習という新分野。今後数年でセキュリティ製品の開発は直感的に行えるようになる。ネットサービスのレコメンデーションシステムのようにAI駆動のセキュリティ・オペレーション・センター(SOC)が効率的に運用される。2つ目は、スーパーコンピュータ規模のニューラルネットワークを利用して、これまで自動化されたシステムでは難しいと考えられていた問題(自動脆弱性検出やパッチ適用など)を解決できる可能性だ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過去最高水準に
  • 4
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 9
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story