コラム

トルコ宗務庁がトルコの有名なお土産「ナザール・ボンジュウ」を許されないとした理由

2021年02月25日(木)17時35分

2018年にはナザル・ボンジュウがユニコードに承認され、絵文字(emoji)として登録(U+1F9FF)された。ナザル・ボンジュウはまさにトルコ文化を代表する存在にもなっているのだ。

多神教にも通じるものであり、けっして容認できるものではない?

今年1月のトルコでの報道をみると、イスラームでは、アッラー以外、何かに究極的な影響を与えるものがあると考えたりすることが禁じられており、ナザル・ボンジュウや類似のものを、何らかの恩恵を受けるために身に着けることは許されないとの見解をトルコ宗務庁が明らかにしたという。

つまり、邪視を防ぐためには、ナザル・ボンジュウのような異教的な護符や霊的な力の持ち主とされる人間(たとえば、聖者)に頼るのではなく、ただアッラーのみに縋らねばならないということである。

こうした考えかたは、サウジアラビアでも同様に存在している。宗教的戒律が緩和されつつある最近は事情が異なるかもしれないが、サウジアラビアではもともとこうした護符やお守りの類は原則禁止されていた。

サウジアラビアの公式イスラーム法学とされるハンバリー派(いわゆる「ワッハーブ派」やサラフィー主義)で聖者廟に参拝したり、樹木に願掛けをしたりするのが禁じられているのはよく知られているだろう。

ワッハーブ派からみれば、こうした行為は、神以外を崇拝の対象としたり、神とそれ以外のものを並べ立てたりすることにほかならず、イスラームのもっとも本質的な部分と彼らが考える「神の唯一性(タウヒード)」に反し、多神教にも通じるものであり、けっして容認できるものではない。

ナザル・ボンジュウが許されないのも、単純化すれば、これと同じことだ。実際、トルコのナザル・ボンジュウ擁護派には、ナザル・ボンジュウが許されないと主張するのはワッハーブ派である(だから、まちがっている)という批判もある。

そもそも最近、ナザル・ボンジュウは中国製の大量生産品ばかり

これだけトルコ文化に深く根差したナザル・ボンジュウを、なぜ今さらトルコの宗務庁は、イスラームでは許されないなどといいはじめたのだろうか。

きちんと調べたわけではないので、何ともいえないが、過去10年近く遡ってみてもトルコでは同様の宗教的判断(ファトワー〔トルコ語ではフェトヴァ〕)がときおり出されており、トルコにおけるイスラームの最高宗教権威では、ナザル・ボンジュウが許されないというのは共通の認識になっていることがわかる。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン、米国との交渉を否定 国連大使「唯一の言語は

ワールド

トランプ氏、米軍は「永遠に」戦争可能 大勝利に万全

ワールド

トランプ氏、イランは協議望むも「すでに手遅れ」 指

ワールド

中東紛争4日目、攻撃広がり犠牲増加 想定以上に作戦
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び率を記録した「勝因」と「今後の課題」
  • 4
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 5
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 6
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 7
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    「日本食ブーム」は止まらない...抹茶、日本酒に「あ…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 10
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story