コラム

ジャマル・カショギがジャマール・ハーショグジーであるべき理由

2018年10月22日(月)18時15分

Wikipedia英語版には殺されたジャマールとドディーが従兄弟同士だと書いてあるが(2018年10月19日閲覧)、ジャマールの父の名はアフマドで、祖父の名はハムザのはずなので、アドナーンの甥、ドディーの従兄弟とは考えづらい。

もちろん、ジャマールの母親がアドナーンとサミーラの姉妹である可能性もあるが、こちらは確認できなかった。いずれにせよ、親族であることはまちがいないだろう(※)。


※なお、本コラム公開後、それを読んだリヤード駐在の丸紅社員で旧知の宮内良尚氏より、ジャマールとアドナーン、ドディー・ファーイドの親族関係についてハーショグジー家の証言にもとづく指摘があった。それによると、やはりジャマールとアドナーンは親族であるが、叔父・甥の関係ではなく、したがって、ジャマールとドディーもイトコ同士ではないとのこと。具体的にいうと、ジャマールの祖父とアドナーンの父ムハンマドが兄弟であるそうだ。したがって、ジャマールからみると、アドナーンは祖父の兄弟の子、つまり父のイトコ、ということになり、ドディーはその甥なので、ジャマールのハトコということになろう。

文字で起こすと余計わかりにくいので、サウード家とのハーショグジー家の相関図をつくってみたので、参考にしてください。(2018年10月30日)

hosaka181022-chart1030.PNG

図は筆者作成 REUTERS (LEFT), Simon Dawson-REUTERS (RIGHT)

ハーショグジー家はマディーナ(イスラーム第2の聖地で、日本のメディアでは通常「メディナ」と表記される)の名門で、多くの著名人を輩出しており、王族との結びつきも強い。実際ジャマールがサウード家の王子たちと密接な関係をもっていたことも知られており、その意味では彼自身、筋金入りの反体制とはいいがたい。

残念ながら現地音よりも英語の発音が優先される

閑話休題。最近の欧米の主要メディアは彼らの姓をおおむね「ハーショグジー」か「カーショグジー」と発音している。とくに英語の場合、Khashoggiと書いて、カショギと読もうが、ハーショグジーと読もうがそれほど違和感はないが、日本語表記だと、カショギと書いて、ハーショグジーと読ませるのは無理がある。

日本のメディアの場合、中東の固有名詞に関して残念ながら現地音よりも英語の発音が優先されることが少なくない。われわれのようにアラビア語を使用する人間にとっては、寂しいかぎりである。一言これ何て発音するのと聞いてくれればいいのにと思うのだが(日本でも主要メディアにはアラビア語のできる記者がいるはずである)。

かつて米国のレーガン大統領が、米国から文句が出て、一夜にしてリーガンからレーガンに変わった前例もある。こういう機会なので、カショギからハーショグジーに変えてもいいと思うのだがどうだろう(レガシーの重要性は重々承知しているが)。

こういうことをいうと、衒学的だと批判されるのだが、衒学的でもなんでもない。相手に対し敬意があれば、なるべく正しい発音に近づけるのは当然だと思う。何もサウジアラビアをスウーディーアラビアに代えろといっているわけではない。初動段階できちんとした対応をしてもらいたいだけのことだ。

それに、大半の人たちは忘れているかもしれないが、「ムハンマド」とか「イスラーム」とか高校の世界史の教科書は原則、現地音に近い表記になっていたはずだ。高校まではその方針が守られているのに、そっから先は現地音主義を無視するというのも解せない。今やアラビア語の現地音は、アラブ世界の放送局のウェブサイトやYouTubeでも簡単に確認できるようになっているのだから、ちょっとした手間でまちがいは防げるはずである。

よく音引きをつけると字数が増えるから長母音を外したほうがいいという人もいる。だが、たとえば、中東にカタールという国がある。実はカタールはアラビア語の表記ではカタルと短母音で発音される。つまり、音引きなしのほうが正しいのだ。それなのになぜか、日本語表記では本来、ないはずの文字を勝手につけて、長母音で発音し、わざわざ字数を増やしているのである。

中東研究者の多くは現地音に近い、なるべく正しい発音や表記を心がけているのだが、いざそうしたとしてもメディアからまちがった発音や表記に直されてしまうことが少なくない。悪貨が良貨を駆逐するということであろうか?あれ?ちがうかな?

ジャマール・ハーショグジーが生きていたなら、「カショギとはオレのことかとハーショグジー言い」とでもいっただろうか。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは156円後半、有事の買いで1カ月ぶ

ワールド

インド製造業PMI、2月4カ月ぶり高水準 強い内需

ワールド

クウェート、ドローン攻撃も大半迎撃 負傷者なし=通

ワールド

イスラエルがイランに新たな攻撃、「米と交渉せず」と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    ドバイの空港・ホテルに被害 イランが湾岸諸国に報復攻撃、民間インフラも対象に
  • 4
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    「本当にテイラー?」「メイクの力が大きい...」テイ…
  • 7
    【銘柄】「三菱重工業」の株価上昇はどこまで続く...…
  • 8
    「高市大勝」に中国人が見せた意外な反応
  • 9
    【銘柄】「ファナック」は新時代の主役か...フィジカ…
  • 10
    米・イスラエルの「イラン攻撃」受け、航空各社が中…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 5
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 6
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 7
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 8
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 9
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 10
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story