コラム

中東各国のポケモンGO騒動あれこれ

2016年07月25日(月)06時50分

 で、今回もユダヤ陰謀論の震源地はエジプトのようだ。たとえば、エジプト軍のハムディー・バヒート元将軍は議会で「ポケモンGOは、エンターテインメントを隠れ蓑にしたスパイ機関の最新の道具である。やつらは実際には国民と国家をスパイしようとしているのだ」と証言している。また、ホサーム・アウィーシュ政府報道官は、ポケモンGOが国家安全保障上の深刻な脅威になるとの見かたを示している。2001年のときには、ポケモン=シオニストというのが、ポケモンがイスラーム的に許されないという議論の柱になっていたのだが、この見かたが多くのアラブ人に根強く残っているのがわかる。

 とはいえ、ただでさえプライバシーの侵害や立ち入り禁止地域への侵入などが頻発しているのだから、GPSとかSNSとかカメラの性能とかを考えると、独裁体制の多い中東各国の治安機関の心配はわからないわけではない。実際、サウジアラビアを含む湾岸諸国のいくつかの通信関係機関はその点で注意喚起を行っている。たとえば、サウジアラビア南部のジャーザーンでは、ピカチュウを求めてはるばるやってきた3人の若者が空港内の立ち入り禁止区域に入って逮捕されるなどという事件も発生した。

【参考記事】クレムリンにもポケモン現る

 当然、アラブ人の大好きな、ポケモンGO=フリーメーソンだといった話もあちこちで語られている。さらに、ポケモンが多くモスクに現れることにも注目が集まっている(例えば、
「ポケモンを狩るためにシーア派モスクに入らなければならない(泣)」というツイート)。

 また、2001年のときのポケモン・ユーザーは子どもが中心だったのに対し、今回のポケモンGOではファンの年齢層がだいぶ上がっているように思う。したがって、自動車に乗ってポケモンを探しにいくといったケースもみられ(下記)、サウジアラビアでは交通局が、運転しながらポケモンGOをすると、罰金300サウジ・リヤール(約80米ドル)という警告を発している。

ランボルギーニでポケモンGO


まだ新たなファトワー(宗教判断)は出ていない

 一方、今回のポケモンGO騒動では意外と宗教関係者の出る幕が少なかった。例外的に早い対応としては、エジプトの宗教権威アズハル大学のアッバース・シューマーン副総長が挙げられる。彼は、ポケモンGOで遊ぶと、人びとは、ポケモンを捕まえるため、スマートフォンの画面に釘づけになって、酔っぱらいのようになると主張した(ただし、これは彼の個人的な意見で、正規のファトワー〔宗教判断〕ではない)。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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