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イスラエル攻撃で死亡のロイター契約カメラマン、ガザから伝え続けた民間人の苦しみ

2025年08月28日(木)13時40分

8月27日、 パレスチナ自治区ガザ南部ハンユニスのナセル病院で25日にライブ映像配信中にイスラエル軍の攻撃を受けて死亡した、ロイターの契約写真記者フッサム・マスリ氏(写真)は、テント生活を送り、家族の食料確保に苦労しながらも戦争が引き起こす民間人の苦しみについて報道し続けた。ハンユニスの病院で撮影。撮影日不詳(2025年 ロイター/Mohammed Salem)

[27日 ロイター] - パレスチナ自治区ガザ南部ハンユニスのナセル病院で25日にライブ映像配信中にイスラエル軍の攻撃を受けて死亡した、ロイターの契約写真記者フッサム・マスリ氏(49)は、テント生活を送り、家族の食料確保に苦労しながらも戦争が引き起こす民間人の苦しみについて報道し続けた。

マスリ氏は経験豊富なカメラマンで、最も危険な状況でも前向きな姿勢で取材に臨んだことから、ガザ地区の緊密な記者コミュニティでも人望を集める存在だったと、記者仲間らは話した。

「明日はもっと良くなる」が、彼の口癖だった。死の前の数カ月間、ガザの飢餓と絶望は深まっていたが、それは変わらなかった。

実際、マスリ氏と2003年に知り合い、昨年はガザ南部ラファで一緒に仕事をしたロイターの上級ビジュアル記者のモハメド・サレム氏との最後の会話を締めくくったのも、その言葉だった。

サレム氏は今年初めにガザを離れたが、25日の朝までマスリ氏と毎日連絡を取っていた。マスリ氏の楽観的な性格と笑顔のおかげで一緒に仕事をするのが楽しかったと話した。

ロイターのアレッサンドラ・ガロニ編集主幹は「フッサムはガザの現状を世界に伝えることに深く尽力していた。彼は、どんなに困難な状況でも、強く、揺るぎなく、そして勇敢だった。彼と共に働いてきたこのニュースルームの全員が、彼の死を深く悼んでいる」と述べた。

マスリ氏の遺体は病院の外階段でカメラと共に収容された。

マスリ氏はそこからイスラエル軍の攻撃を受けたハンユニスの状況を中継していた。数分後、階段で2度目の爆発が発生し、救助隊員やAP通信、アルジャジーラなどの報道機関で働いていたジャーナリスト4人を含む少なくとも19人が死亡した。死者には、ロイターなど複数の報道機関と契約するフリーランス記者のモアズ・アブ・タハ氏が含まれる。

ロイターと契約する写真家ハテム・ハレド氏も負傷した。最初の爆発後の状況を病院の外階段で撮影中に、2回目の攻撃を受けた。イスラエル軍は26日、ロイターに対し、ロイターとAP通信の記者は「攻撃の標的ではなかった」と述べた。イスラエルのネタニヤフ首相は、病院での「悲劇的な事故」を深く遺憾に思うと述べた。

ジャーナリスト保護委員会によると、戦争開始以来、殺害されたガザ地区のパレスチナ人ジャーナリストとメディア関係者の数は189人。「国際社会はイスラエルに対し、報道機関に対する違法な攻撃を続けている責任を問うべきだ」と表明した。

マスリ氏の妻サマヘルさん(39)はがんを患っており、マスリ氏は治療のためにガザから連れ出そうとしていた。夫妻には、シャードさん(23)、モハメッドさん(22)、シャサさん(18)、アフマドさん(15)の4人の子供がいた。

マスリ氏はハンユニスで生まれ育ち、ジャーナリズムの学位を取得後の1998年にフリーランスとして働き始め、パレスチナ放送局などで働いた。サマヘルさんによると、ガザで何が起こっているかを世界に伝えたいという思いがマスリ氏のジャーナリズムへの情熱の源泉だった。

「フッサムのメディアにおける役割は、報道機関向けに真実を伝えることだった。休暇中も撮影を止めなかった」と、兄弟のエゼルディンさんは振り返った。

「(マスリ氏の)カメラは、我々に有利であろうと不利であろうと記録していた。そこにいるのがパレスチナの武装勢力だったとしても、イスラエル占領軍だったとしても、カメラは回っていた」

2023年10月、武装組織ハマスの越境攻撃に対する反撃を始めたイスラエル軍が、すべての民間人にハンユニスから退去するよう命じたため、マスリ氏と家族はハンユニスの自宅を離れた。

一家は後に自宅が破壊されたことを知った。

マスリ氏は昨年、他の記者と共有しているワッツアップのグループに投稿した自身の動画で、自宅と近隣地域を失った悲しみを語っていた。

「残っているのは廃墟だけだ。私たちは、その前で泣くしかない」と、マスリ氏は話した。一家は昨年7月、ハンユニスに戻り、テント生活を始めた。

<ライブ配信>

マスリ氏は、紛争開始から8カ月後の24年5月、エジプト国境に近いラファでロイターの契約社員として働き始めた。そこでは避難キャンプからの生中継や、ラファ国境検問所を通過する人道支援物資の搬入を記録する仕事に携わった。

ハンユニスに戻ってからは、マスリ氏はナセル病院から毎日放送されるロイターのライブ配信を担当。ガザの状況を常時生配信して、世界中のロイターのメディア顧客が利用できるようにしていた。

「フッサムは何カ月もの間、主にナセル病院や時に必要に応じてラファから、この過酷な仕事を毎日こなしていた」と、ロイターの中東・北アフリカ担当ビジュアルエディター、ラビブ・ナシル氏は話した。

マスリ氏はガザ南部の状況も取材し、病院で築いた人脈を活かして、飢餓状態にあるガザの栄養失調の実態など、人道的危機の様相を鮮やかに伝えてきた。

マスリ氏が23日に撮影した最後のレポートは、イスラエルの攻撃で死亡した家族や子供の遺体を前に嘆く人々の様子を撮影したものだった。この戦争では少なくとも6万2000人のパレスチナ人が死亡している。

マスリ氏がライブ配信の場所にナセル病院を選んだのは、そこが中継を行える最も安全な場所だと考えたからだと、毎朝マスリ氏がカメラを準備する際に連絡を取っていた前出のサレム氏は言う。

最後の会話の中で、マスリ氏はガザでの生活がいかに困難になり、食糧を見つけるのに苦労しているかを話していた。

数時間後、ロイターが捉えた画像には、彼の遺体が担架に横たわっている様子が映っていた。

ロイター
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