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焦点:米鉄鋼産業の復活へ、鍵はトランプ関税ではなく労働力の確保

2025年04月24日(木)15時27分

4月23日、トーマス・ライジンガーさん(55)は、米アーカンソー州ブライスビルにある広大な鉄鋼加工工場で働くため、片道約1時間半かけて通勤している。写真はニューコアのスチール工場で働く従業員。ブライスビルで3月撮影(2025年 ロイター/Karen Pulfer Focht)

Timothy Aeppel

[ブライスビル(米アーカンソー州) 23日 ロイター] - トーマス・ライジンガーさん(55)は、米アーカンソー州ブライスビルにある広大な鉄鋼加工工場で働くため、片道約1時間半かけて通勤している。

さらに遠方から通う同僚もおり、そのうち1人は平日キャンピングカーで暮らして週末だけ帰宅する生活だ。ここには、そうした労働者顧客向けのRVパーク(車中泊用の駐車場)が点在している。

輸入関税を通じて米中西部の製造業を大幅拡大するというトランプ米大統領の構想を実現するには、こうした労働者が大幅に増える必要がある。鉄鋼はトランプ氏が思い描く産業の代表例であり、同氏は貿易戦争の第1撃として鉄鋼輸入に25%の関税を課した。

しかし外国企業との競争は、鉄鋼価格を圧迫するのは確かだが、この地域の鉄鋼企業にとって最大の課題ではない。最大の課題は労働力の確保だ。

ブライスビルがあるアーカンソー州ミシシッピ郡のスローガンは「鉄鋼の土地」だが、これは決して過言ではない。経済分析会社チュムラ・エコノミック&アナリティクスの調査によると、郡内の雇用2万人のうち約25%は鉄鋼大手ニューコアとUSスチールが所有する広大な製鉄所や、それらに隣接するパイプ製造会社や金属加工会社など、関連企業で占められている。

ミシシッピ郡経済開発財団の会長、クリフ・チットウッド氏の推計では、製鉄所が直接雇用する労働者の9%が、平日にRVパークや安アパートで暮らさざるを得ないほど遠方から通っている。

<長時間シフトと長時間通勤>

チットウッド氏は「これらの労働者の多くは12時間のシフトを4日間続け、その後4日間休むシフトを組んでいるため、一部は5、6時間も離れた場所で生活できている」と説明。一部の労働者は、逆のシフトで働く労働者と勤務日用の住居を共有していると言い添えた。

この地域の労働市場の逼迫は、地方と全国でみられる傾向の縮図だ。

米国は数十年前に工場労働者の大量訓練を中止した。しかも退職と移民取り締まりによって労働力のプールは枯渇している。グローバル化によって多くの国内工場が閉鎖を余儀なくされたため、国民は製造業を不安定な仕事だと見なすようになった。

米国勢調査局の最近のデータによると、フル稼働できなかったと回答した全米の工場の20%以上が、労働力不足や特定のスキル不足を主な理由に挙げた。

ホワイトハウスのデサイ報道官は製造業のスキル不足について問われ、米国では若年成人の10人に1人以上が、無職または教育や訓練を受けていて職に就いておらず、製造業セクターを拡大するための潜在的な労働力は不足していないと述べた。

ミシシッピ郡は鉄鋼産業が繁栄したにもかかわらず、数十年にわたって経済が衰退し、生活の質が低下してきた。

<過半数が郡外居住>

現在、この地域で鉄鋼業に従事する労働者の過半数は郡外に住んでいる。給与は良く、通勤費や一時的な住居の費用をまかなうのに役立つ。

給与は確かに高い。チュムラの調査によると、郡内の金属関連産業は労働者の平均年収が11万6000ドルを超え、郡の産業全体の平均6万9000ドルを大幅に上回る。大規模な製鉄所で働く労働者はボーナスが生産量に連動するため、さらに高い給与を得ている。

しかし郡内を車で回ると、繁栄の兆候はほとんど見られない。かつて綿花農場が広がったミシシッピ川沿いの広大な平野であるこの郡の人口は、1940年に約8万8000人でピークに達し、現在はその半分に満たない。

他の製造業は、鉄鋼ほど好調ではない。その象徴的な存在が、町の郊外にあるレンガ造りの建物だ。かつては活気あるシャツ工場だったビルの窓には板が張られ、庭は荒れ、正面扉には「この建物はブライスビルの産業繁栄に捧げられた」と刻まれたプレートが掲げられている。

荒廃したかつての市街地には空き店舗が点在する。地元の高校は生徒数が減り、学区は州内で最も成績の評価が低い。国勢調査局によると、郡の貧困率は21%で、州平均の15.7%を大幅に上回る。

ブライスビルのメリサ・ローガン市長は「住宅問題がわれわれの最大の危機だ。ここは住宅砂漠だ」と認めた。

<住宅建設を支援>

問題があまりに深刻なため、鉄鋼メーカーを主な資金提供元とする住宅建設支援プログラムが導入された。新たに住宅を建てて勤務のために4年以上住む労働者に住宅価格の一部を支援する仕組みだ。

繁栄する鉄鋼産業と地域経済の衰退というコントラストは、製造業基盤を建て直したいと願う全ての地域が直面する問題を浮き彫りにしている。

国民を工場労働に就かせる上で最大の壁は国民の認識、すなわち、いくら製造業がきらびやかな新工場に投資しても、不況になればあっさり縮小または閉鎖されるとの認識だ。これは概ね当たっている。

ブライスビルの工場で働くライジンガーさんの同僚、グレッグ・ガルブレイスさんは、テネシー州から1時間かけて通勤している。ブライスビルは「良い地域ではない。何もないし、犯罪率も高い」という。

この地域の鉄鋼労働者は労働組合に加入していないため、解雇された場合の保護が少ない。この傾向は全米で強まっている。労働省の統計によると、米労働者のうち組合員は10%未満と、1983年の20%超から低下した。

米鉄鋼最大手ニューコアの広報担当者は「すべての製造業者が人材不足に直面している。当社だけの問題ではない」と語った。

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