ニュース速報
ワールド

アングル:米大統領選で浮上のチップ非課税案、激戦州ネバダでは関心呼ばず

2024年10月05日(土)08時42分

 10月1日、 クリスティー・ストレイクさんは、米西部ネバダ州リノで労働組合に加盟するバーテンダーとして働き始めて20年になる。写真は料飲組合226支部のTシャツ。ラスベガスで9月撮影(2024年 ロイター/Ronda Churchill)

Howard Schneider Ann Saphir

[ラスベガス/リノ(ネバダ州) 1日 ロイター] - クリスティー・ストレイクさんは、米西部ネバダ州リノで労働組合に加盟するバーテンダーとして働き始めて20年になる。仕事は安定していて、自分にとって最良のシフトを選ぶことができ、他の多くの接客業従事者とは異なり十分な収入を得ているという。その額は、チップ収入にかかる連邦所得税を廃止するという、米大統領選の民主党候補ハリス副大統領、共和党候補トランプ前大統領双方の公約が実施された場合に恩恵を受けるのに十分な金額だ。

しかし、その問題とストレイクさんがハリス氏に投票する強い意思を持っていることは別の話だ。ハリス氏は、激戦州のネバダで強力な料飲組合226支部から推薦を受け、最近の世論調査によるとトランプ氏をリードしている。

チップ収入に連邦所得税がかからなくなる見通しについて今年9月に質問すると、ストレイクさんは「私は『この』休暇に行くか、もしくは家のために『これ』を買うかのどちらかが可能という状態にある。もしも課税分のお金が私の財布にあれば、おそらく両方でもう少しのことができるだろう」と答えた。その上で「それはボーナスではあるけれど、私はそのことだけで投票先を決めるつもりはない」と強調した。

ハリス氏とトランプ氏が関税や税金といった分野で経済政策案を競い合い、有権者の票を奪い合う中で、チップ収入にかかる連邦所得税を免除する案が浮上してきた。

ただネバダでは、チップ収入の割合が大きい接客業が少なくとも雇用の5分の1超を占めているにもかかわらず、チップ収入を非課税にする案は意外なほど関心が薄い。

ネバダ州雇用・訓練・リハビリテーション局のチーフエコノミスト、デビッド・シュミット氏は、2023年に労働省の賃金に関する四半期調査に報告された同州での年間賃金は計約950億ドルで、うちチップ収入は約1.5%にとどまったと述べた。

シュミット氏は「全くないわけではないが、大部分を占めるほどではない」とし、チップ収入を非課税にしても「本当に大きな影響が出ることないと思う。かなり人による問題だ」と語った。

<労働者の問題>

料飲組合のテッド・パッパゲオージ経理担当書記は9月、この問題は複雑で、トランプ氏のチップ非課税という単純な提案だけで対応できるものではないため、同氏の提案はあまり信用できないと言及した。その上で「私たちは30年間、チップ収入に対する公正な課税を求めて闘ってきた」とし、チップ収入は1時間の労働に対して約束された時給と同じ性質のものではなく、時給を大きく変動させる要因となる顧客の裁量による贈り物だ、と指摘した。

ネバダは雇用主がチップ収入のある労働者に最低賃金未満の賃金を支払うことを認めていない7州の1つだ。パッパゲオージ氏はチップ収入の非課税化は、同組合がハリス氏を支持する上で考慮に入れたより大きな争点の一部に過ぎないと説明した。

その上で「これは労働者階級の有権者の問題だ」とし、「最低賃金を引き上げるとともに、チップ収入への課税をゼロにしないまでも減税するなどの案も考えられる」と付け加えた。

<影響は限定的>

内国歳入庁(IRS)は約610万人の労働者が社会保障給与税向けに383億ドルのチップ収入を申告した18年を最後に、チップ収入の詳細な推計値を公表していない。

超党派の政策研究拠点となっているエール大予算研究所の最近の調査によると、チップ収入への非課税の恩恵を受ける納税者は全米の3%程度に過ぎない。チップを受け取っている納税者の多くの収入は連邦所得税を支払う基準に達していないと推定されている。

ハリス氏はチップ収入への免税制度に所得制限を設けるべきだとの考えを示唆した。この場合、連邦政府の歳入へのマイナス影響は小さくなるが、恩恵を受ける労働者の人数はさらに限られる。どのような税制変更がなされても、エコノミストらは行動がどのように変化したのか、例えば労働者の手取りが免税措置によって「増額」となった場合、雇用主が支払う給与保証が減額されたかどうかなどを探ることになるだろう。

ブルッキングス研究所の研究者のイアン・バーリン氏とウィリアム・ゲイル氏は最近の分析で「両陣営とも、自分たちの提案が低所得労働者の経済的地位を改善させる方法だと考えている」と指摘。「これが重要な目標であることには同意するが、達成にはずっと良い方法がある」として、最低賃金の改定や保育制度の拡充、所得税控除の拡大などを挙げた。その上で「チップを非課税にすることはほとんどの低所得労働者にとっては何の役にも立たないし、多くのチップ労働者にとってもほとんど役にも立たないかもしれない」との見解を示した

<「もう少し稼ぎたい」>

リノを拠点にする公認会計士でトランプ氏を支持するマイク・ボズマ氏は、いかにインフレが急拡大し、特に中小企業経営者を圧迫する高金利につながったかに焦点を当てるべきなのに、両陣営ともチップ収入非課税を唱えるのは「票のための迎合」だと批判した。さらに、物価上昇を抑えようとする努力を十分にしなかったハリス氏とバイデン大統領の責任を問うと息巻いた。

料飲組合のロセリア・メンドーサさんは9月の午後、ラスベガスで組合員らと集まり、息苦しい暑さの中でハリス氏への投票を呼びかける準備を進めた。カジノレストランのアシスタントサーバーのメンドーサさんは16ドル強の時給にかかる税金が「取られ過ぎている」と反発し、「家族のためにもう少し稼ぎたい」と語った。

トランプ氏がそれを実現してくれるとは信じていないとして「私の家族全員がハリス氏を支持している」と話した。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中マドリード協議2日目へ、TikTok巡り「合意

ビジネス

英米、原子力協力協定に署名へ トランプ氏訪英にあわ

ビジネス

中国、2025年の自動車販売目標3230万台 業界

ワールド

トランプ氏、首都ワシントンに国家非常事態宣言と表明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中