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アングル:失業エピソードをSNS発信する中国の若者、共感と連帯広がる

2024年09月05日(木)13時47分

 中国政府が民間の学習塾への締め付けを強化したことで、フー・アジュンさん(32)は昨年8月、教育業界から離れた。彼女を待っていたのは、「失業インフルエンサー」という思いもかけぬ第2の人生だった。写真は2018年の河北省石家荘市の就職フェア(2024年 ロイター/Jason Lee)

Laurie Chen

[北京 2日 ロイター] - 中国政府が民間の学習塾への締め付けを強化したことで、フー・アジュンさん(32)は昨年8月、教育業界から離れた。彼女を待っていたのは、「失業インフルエンサー」という思いもかけぬ第2の人生だった。

広州市で動画ブロガーとして活動するフーさんは、8400人のフォロワーに向けて、長期にわたる自分の失業生活を題材にキャリア関連のアドバイスを送る。昨年12月の投稿には「31歳で失業、成し遂げたことは何もなし」とある。

フーさんの現在の月収は約5000元(約10万3000円)。動画ブログの広告収入、コンテンツ編集、個人向けコンサルティング、それに街頭でのハンドメイド製品販売が収入源だ。

「今後はフリーランスが当たり前になると思う」とフーさんは言う。「企業に雇われていたとしてもフリーランスとしての能力は必要だ。車の運転のように、いざという時のバックアップのスキルになるだろう」

中国ではこのところ、「新質生産力」の発展という号令がかかっている。AI(人工知能)やロボット工学を含む狭い範囲の科学技術分野に的を絞った政策だ。

だが、そうした政策は他のセクターにおける需要の低下を意味し、1世代分の高学歴の若者たちを置き去りにしてしまうリスクがあるという批判もある。この世代は最後の就職ブームに乗り遅れた一方で、卒業前に最先端の産業向けに学び直すこともできなかった。

過去最多の1179万人を数えた今年の大学新卒者は、前例のない就職難に見舞われている。金融などホワイトカラー分野で人員削減が広がる一方で、テスラやIBM、バイトダンスといった企業でもここ数カ月は採用を絞っているからだ。

中国の16-24歳の人口は約1億人だが、都市部での若年層の失業率は7月に17.1%にまで跳ね上がった。アナリストらによれば、この数値に隠れてはいるが、村落部における失業者も膨大な数に登るという。

2023年6月に若年層の失業率が過去最高の21.3%に達して以来、中国政府は若年層の失業データの公表を一時中止し、後に在学中の学生を除外するよう基準を修正した。

現在、いわゆる「ギグ・エコノミー」の就労者数は2億人を超え、かつての急成長セクターでも生産能力過剰の問題を抱えている。今年になって中国国内の10を超える都市で、配車サービスが供給過剰になっているという警告が見られた。

伝統的に、安定した終身雇用の意味で「鉄の茶碗」と呼ばれてきた公務員にも、人員整理の波は広がっている。

北京市は昨年、5%の人員削減を公式に発表し、それ以降、数千人が解雇されたと報じられている。河南省でも今年に入って5600人、山東省でも2022年以降に1万人近くの人員削減が行われている。

一方、アナリストらによれば、国内の専門学校卒業生390万人は、もっぱら末端の製造業やサービス業務向けの訓練を受けている。2022年には、長いあいだ大学より劣っているとされていた職業訓練への過少投資を修正する改革が発表されたが、それには何年もかかる見込みだ。

中国の人力資源・社会保障相は3月、このところ、溶接、建具、高齢者介護の他、「高いスキルを持つデジタル人材」の不足に直面していると述べた。

コロンビア大学のヤオ・ルー氏(社会学)の試算によれば、23-25歳の大卒者のうち約25%が、学歴に見合わない仕事に就いているという。

匿名を条件に取材に応じた中国のエコノミストは、中国の現役大学生は4800万人近いが、その多くは安い初任給に甘んじ、生涯納税額も従来世代よりも少なくなる可能性が高いと指摘する。

「『ロストジェネレーション(失われた世代)』とまでは言わないが、膨大な人的資本が無駄になっている」とこのエコノミストは言う。

<「3人分の業務量」>

習近平国家主席は5月、当局者に対して新卒者向けの雇用創出に最優先で取り組むよう要請した。だが、ロイターの取材に応じた失業中や最近解雇されたばかりの若年労働者9人にとって、雰囲気は暗い。

アンナ・ワンさん(23)は今年、深セン市の国営銀行の職を辞した。プレッシャーの大きさと頻繁なサービス残業が原因だった。約6000元の月給に対して、「3人分の業務量をこなしていた」という。

ワンさんの元同僚も、給与削減やとうてい処理不可能な業務量を伴う職への配置転換などが広がっており、実質的に退職を強要している、と不満を口にする。ワンさんは現在、履歴書の代筆や覆面調査員などのアルバイトをしている。

中国の政策担当者7月、各国外交官向けに政策決定の経済会合について説明する会見において、企業に対して人員削減を見送るよう水面下で要請していると発言した。この会見の出席者がロイターに明かした。

オリビア・リンさん(30)は7月に公務員を辞めた。広範な賞与削減が実施され、今後は人員削減もありうると上司がほのめかしたからだ。公式発表によれば、リンさんが勤務していた深セン市では、今年になって4つの地区事務所が閉鎖された。

「全体として、最近は職場環境が悪く、財政面での締め付けもひどいという印象があった」とリンさんは言う。

リンさんは現在テクノロジー系の求人を探している。だが、1カ月求職活動をしても1度も面接にたどりつけなかった。「2021年とは全く状況が違う。当時は、1日1件は確実に面接を受けられた」

<失業の屈辱感は薄れる>

雇用市場から締め出された中国の若者たちは感情のはけ口を求め、長期の失業状態を生き延びるためのコツを教え合うようになっている。冒頭のフーさんが使っているSNSサイト「小紅書」では、「失業中」「失業日記」「解雇された」といったハッシュタグの閲覧回数が合計21億回に達している。

ユーザーは、ありふれた日常茶飯事を描写し、解雇からの日数を数え、上司との気まずいやり取りをシェアし、アドバイスを提供する。泣き顔の自撮り写真が添えられていることもある。

前出のコロンビア大学のルー氏は、失業した若者の可視化が進むことで「社会的には以前より受け入れられるようになり、失業をめぐる屈辱感は低下している」と指摘する。それによって、孤立していたはずの若者が相互に結びつき、「恐らく現在の経済情勢のもとで失業していることの意味まで再定義できるように」なっているという。

ルー氏によれば、大卒の失業者は、自分たちの窮状に関して政府の責任を問うのはリスクが高く、効果的でもないと理解しているという。彼らはむしろ「不満と責任追及の内面化」に走り、「寝そべり族」になっていく傾向があると同氏は言う。

インフルエンサーとなったフ―さんは、大卒者たちは高望みをやめるべきだと考えている。

「今が本当にどうしようもない時代でも、若い人たちは、スキルを蓄積したり、SNSで何かを売る、ハンドメイド製品を作るといったクリエーティブな活動ができるのではないかと思う」

(翻訳:エァクレーレン)

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