ニュース速報
ワールド

アングル:今年は山火事増加も、米で懸念される深刻な「対応力」の低下

2024年02月25日(日)08時07分

 2月20日、 米国では今年、エルニーニョ現象によって山火事の増加が予測されているにも関わらず、消防当局の対応能力が大幅に不足する懸念が生じている。写真は2020年10月、カリフォルニア州カリストガで消火活動にあたる消防士(2024年 ロイター/Stephen Lam)

David Sherfinski

[リッチモンド(米バージニア州) 20日 トムソン・ロイター財団] - 米国では今年、エルニーニョ現象によって山火事の増加が予測されているにも関わらず、消防当局の対応能力が大幅に不足する懸念が生じている。

連邦機関に所属する林野火災消防士が大幅な賃金カットの恐れに直面しているにも関わらず、連邦議会はまひ状態で予算措置が危ぶまれ、消防士の士気が低下しているためだ。

これは、2021年に米議会とバイデン大統領が消防士の給与と一時的な賃上げのために計上した約6億ドル(約900億円)が、既に割り当て済みで枯渇しているからだ。その結果、今後は消防士の給与が年最大2万ドル減る恐れが生じている。

元林野火災消防士のジョナソン・ゴールデン氏は「今年の火災規模が例年並みであれば、間違いなく給与等のための資金が不足するだろう」とし、「次の期間の給与に、上積み分の手当が含まれるかどうか心配しなければならないようでは非常に不安だ」と語った。

連邦機関の林野火災消防士は、ただでさえ州や市の消防士よりも賃金が低い場合が多く、賃金を巡る不確実性が人手不足を深刻化させている。

問題をさらに悪化させているのが、連邦予算決定プロセスがまひ状態に陥っていることだ。議会は1月に再度つなぎ予算案を可決し、政府機関の一部閉鎖を回避するために3月初めまでの資金を確保した。

一部の連邦政府機関には3月1日まで、その他の機関には3月8日まで資金が提供される。昨年10月から繰り返されているこのつなぎ予算により、給与水準は削減されずに維持されたものの、消防士らはより恒久的な解決策を求めている。

<火災対応能力の低下>

米国の林野火災消防士は約1万7000人おり、その大半は農務省森林局か内務省のどちらかに所属している。

内務省の5450人余りの林野火災消防士は2022年以降、給与に手当が上乗せされている。また森林局の報道官によると、議会が行動を起こさなかった場合、同局の約1万2800人の消防士は年間約2万ドルの減給となる可能性がある。

バイデン大統領は2021年にインフラ投資法を成立させた際、消防士の給与が「とんでもなく低い」と批判した。同法には、2万ドルまたは基本給の50%相当の、いずれか低い方の額だけ引き上げる臨時昇給が盛り込まれた。

同法の資金が枯渇した後は、この賃上げを維持するために他の財源から資金が回されてきた。

しかし内務省の報道官によると、議会がこうした対応の継続を承認したとしても、「今年の火災シーズンのピークに林野火災への対応能力が減退しないようにする」ためには、他の資金源を使う必要が生じるかもしれない。

ランディ・ムーア森林局長は今月のメモで、同局が「給与、ITニーズ、その他の経費のための資金不足」に直面しているとした。

連邦組織で働く消防士のベン・マクレーンさんは「絶えず年間2万ドル減給される可能性を突きつけられているストレスに直面すれば、一家を支える稼ぎ手としてどのような気持ちになるか想像がつくだろう」と言う。

離職する消防士もいる。ある森林火災消防士は「求人件数が過去最高に達しているだけでなく、応募者数が過去最低だと聞いている」と明かす。

この消防士によると、大きな懸念は離職率だけでなく、特に過酷で危険な任務に従事できる熟練消防士が離職している点にあるという。

<エルニーニョ>

米国は昨年、冬場の湿気などのおかげで山火事の発生件数と焼失面積が過去10年の平均を下回った。

しかし科学者らは、今年は昨年とは状況が異なると指摘している。海水温が異常に上昇するエルニーニョの影響で、チリでは今年すでに歴史的な山火事が発生した。

支援団体「グラスルーツ・ワイルドランド・ファイヤーファイターズ」のルーク・メイフィールド代表は、西部の降雪量と水分が相対的に不足していることから、今年は「大規模な火災の年」になると予想している。

「3月8日以降は恒久的な(予算)措置が成されればよいのだが」とメイフィールド氏。さもなければ「連邦職員(消防士)の定着率や採用率を向上させるために何もしていないことになる」と語った。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

黒海でロシアのタンカーに無人機攻撃、ウクライナは関

ビジネス

ブラックロック、AI投資で米長期国債に弱気 日本国

ビジネス

OECD、今年の主要国成長見通し上方修正 AI投資

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、11月は前年比+2.2%加速 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 6
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 7
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中