アングル:FRB利下げに道か、トランプ氏との対立激化か 鍵握る夏の経済指標

5月の米個人消費支出(PCE)価格指数の伸びが予想外に加速したことで、インフレ率は米連邦準備理事会(FRB)の目標値2%から、小幅ながらさらに遠のいた。写真はFRBの建物。2022年1月、ワシントンで撮影(2025年 ロイター/Joshua Roberts)
[ワシントン 27日 ロイター] - 5月の米個人消費支出(PCE)価格指数の伸びが予想外に加速したことで、インフレ率は米連邦準備理事会(FRB)の目標値2%から、小幅ながらさらに遠のいた。FRBが利下げを再開してトランプ米大統領との緊張を和らげられるかどうかを見極める上で、この夏の経済物価データが注視される。
商務省が27日発表したPCEデータは、FRBの政策担当者らにとって懸念を要するかもしれない経済状況を映し出した。個人消費と所得はともに減少して景気減速の可能性を示した一方、コア価格指数の前年比上昇率は2.7%に加速し、市場予想を上回った。FRBの物価目標に使われる総合価格指数は同2.3%の上昇に留まったものの、目標値を依然上回っている。そして4月分は上方修正された。
投資家は当初、消費の弱さに着目し、FRBが年内に計75ベーシスポイント(bp)利下げを実施するとの見方を強めた。これはFRBの政策担当者らが予想するよりも大幅な利下げだ。
家計は、トランプ氏の輸入関税引き上げを控えた駆け込み消費を終え、今では消費を控えている。スパルタン・キャピタル・セキュリティーズの首席市場エコノミスト、ピーター・カーディロ氏は「今最も心配なのは個人所得と個人支出が減少していることだ。全てのサインが景気減速を示している」と述べた。
ただ、トランプ関税によって今後数カ月間でインフレ圧力が高まるかどうかは、今回のデータではほとんど分からない。関税の全てが依然、最終決定されたわけではない。
BOMキャピタル・マーケッツのシニアエコノミスト、サル・グアティエリ氏は「この統計は連邦公開市場委員会(FOMC)に何の影響も与えず、FOMCが様子見姿勢を変えることはないだろう。コア物価上昇率はわずかに高まったが、関税がインフレにどの程度影響するかの議論がこれで決着するわけではない」と記した。
市場で利下げが予想されている9月のFOMC会合までには、6、7、8月の消費者物価指数(CPI)が発表される。パウエルFRB議長は今月の24、25日の議会証言で、これらの統計によって関税が消費者物価に影響するのか、それともそうした懸念が杞憂だったのかが分かるだろうと述べた。
加えて、この3カ月間の雇用統計によって、労働市場が堅調さを保つのか、あるいは雇用の伸び鈍化と失業率の上昇によって物価面以外の利下げ要因が出てくるかが明らかになるだろう。
パウエル氏は24日、下院金融サービス委員会での証言で、関税の影響でインフレ率が上昇するというFRBの見通しについて、「この夏、6月の数字と7月の数字によって状況が分かり始めるだろう」と述べ、インフレ率が上昇しないようであれば、消費者への価格転嫁はFRBが予想したほどではないという考えを受け入れ、政策に反映させる姿勢を示した。
このことは、来年5月に任期切れを迎えるパウエル氏に対するトランプ氏の姿勢にも影響するだろう。トランプ氏はFRBが大幅な利下げをするべきだと繰り返し主張し、金利据え置きを続けるパウエル氏に怒りをぶつけている。
トランプ氏とその側近らは、大統領選挙戦中の昨年から、通常より早くパウエル氏の後任を指名する可能性を示してきた。指名された人物が公の発言を通じて他のFOMC委員や金融市場をパウエル氏の政策方針とは異なる方向に導くことで、同氏に圧力をかけると期待してのことだ。
これは試されたことのない戦略であり、リスクを伴う。
コロンビア・スレッドニードルのシニア金利・通貨アナリスト、エド・アルフサイニ氏は「パウエル氏の方針から逸脱する『影のFRB金融政策』を私がいくらか重視するかと言えば、そんなことはしない」と言う。ただアルフサイニ氏は「市場心理に予見不可能かつ有意な変化が起こり」、それが必ずしも経済やトランプ氏にとって有益ではないものになる可能性には「大いに注意する」必要があると述べた。
アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)の経済政策研究ディレクター、マイケル・ストレイン氏は「何カ月間もFRB外部で過ごす影の議長を指名することは、大統領にとって悪い考えのように思える」と指摘。各種市場がFRBの独立性低下が期待インフレ率に与える影響を織り込み始めた場合、「長期金利を押し下げるより、押し上げる可能性の方が高いだろう」と語った。
ただ9月の会合までには、この問題を巡る状況も変化しそうだ。