アングル:自動車業界、レアアース不足で「パニック状態」 供給網ショック警戒

6月9日、世界の自動車業界は、中国のレアアース(希土類)輸出規制が過去5年で3度目の大規模なサプライチェーン(供給網)ショックに発展するリスクがあると警戒を強めている。写真はメルセデス・ベンツの生産ライン。ドイツ南西部ラシュタットの工場で4日撮影(2025年 ロイター/Christoph Steitz)
Christina Amann Nick Carey Kalea Hall
[ベルリン/ロンドン/デトロイト 9日 ロイター] - 世界の自動車業界は、中国のレアアース(希土類)輸出規制が過去5年で3度目の大規模なサプライチェーン(供給網)ショックに発展するリスクがあると警戒を強めている。
ドイツの磁石メーカー、マグノスフィアのフランク・エッカード最高経営責任者(CEO)のもとには、ここ数週間ひっきりなしに電話がかかってくる。
電話の相手は中国の輸出規制で品薄状態にあるレアアース磁石の代替供給源を必死に探す自動車メーカーや部品メーカーだ。一部のメーカーは代替磁石を確保できなければ、7月中旬までに工場が操業停止に追い込まれるリスクがあると話しているという。
エッカード氏は「自動車業界全体が完全なパニック状態だ。メーカーはどんな価格でも払う用意がある」と述べた。
自動車業界は2021─23年に半導体不足に見舞われ、生産が混乱に陥った。20年には新型コロナウイルスの流行で、数週間にわたる工場閉鎖を余儀なくされた。
こうした危機を受け、業界はサプライチェーン戦略を強化。主要部品の代替供給源の確保を優先し、危機に弱いジャストインタイムの在庫管理を見直した。
だが、電話の様子から判断すると「誰も過去から学んでいない」ようだとエッカード氏は指摘する。
今回不足しているのはレアアースだが、中国が圧倒的なシェアを握るため、業界にはめぼしい選択肢がほとんどない。中国の一握りの官僚が輸出許可権限を握っているためだ。
欧州自動車部品工業会(CLEPA)によると、一部の欧州自動車部品メーカーはレアアース不足で、すでに工場や生産ラインの操業を停止している。CLEPAのベンジャミン・クリーガー事務総長は「遅かれ早かれ、これは誰もが直面することになる」と警告する。
自動車ではサイドミラー、ステレオスピーカー、オイルポンプ、ワイパー、燃料漏れセンサー、ブレーキセンサーなど多くの部品にレアアース磁石モーターが使われている。
コンサルティング会社アリックスパートナーズによると、中国は世界のレアアース採掘の最大70%、精製能力の85%、レアアース金属・合金・磁石生産の約90%を支配。国際エネルギー機関(IEA)によると、平均的な電気自動車(EV)はレアアース元素を約0.5キロを使用する。ガソリン車はその半分という。
<中国依存脱却に苦戦>
米ネブラスカ州でレアアース開発を進める鉱山会社ニオコープのマーク・スミスCEOは「中国は、いつでもレアアースという切り札を使える」と指摘。
自動車業界は中国依存からの脱却やレアアースを使わない磁石の開発を目指しているが、多くのケースでは採算の取れる規模を実現するまで何年もかかるという。
ゼネラル・モーターズ(GM)やBMW、部品メーカーは、レアアースへの依存度が少ないモーターの開発を進めているが、コスト削減につながる生産規模には達していない。
欧州連合(EU)は「重要原材料法」など通じて域内でのレアアース開発を目指しているが、調査会社ロジウム・グループのシニアアドバイザー、ノア・バーキン氏はペースが遅いと指摘する。
商品を実用化した企業も、中国企業との価格競争に苦戦している。ドイツの金属専門会社ヘレウスの磁石リサイクル事業共同責任者、デービッド・ベンダー氏は、同事業の稼働率が現在1%で、売り上げが伸びなければ、来年閉鎖せざるを得ないと語った。
<単なる警告射撃か>
自動車業界は、長期的な解決策を模索する一方で、差し迫った工場閉鎖を回避するため奔走している。メルセデスベンツはレアアース在庫の構築に向けサプライヤーとの協議を進めている。
アナリストによると、今回の部品不足を受けて、自動車メーカーは製造できるところまで製造して、部品が手に入った時点で完成させるという半導体危機の際と同じ対応を迫られる可能性がある。
自動車メーカーの中国依存はレアアースだけにとどまらない。24年の欧州委員会の報告書によると、中国はマンガン、グラファイト、アルミニウムなど19の主要な原材料について、世界の供給の50%以上を支配している。
サプライチェーン専門会社SCインサイツのアンディ・レイランド共同創業者は、こうした原材料がいずれも交渉の切り札として中国に利用される可能性があるとし「今回は単なる警告射撃だ」との見方を示した。
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