ニュース速報
ビジネス

欧州の中銀や金融当局、FRBの緊急時のドル供給を懸念

2025年03月24日(月)08時42分

 3月22日、市場の緊急時に米連邦準備理事会(FRB)がドル資金を供給してくれるかどうかを欧州の中央銀行や監督当局が疑問視しており、金融関係者らが非公式の会合を開いたことが分かった。19日撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

Elisa Martinuzzi

[22日 ロイター] - 市場の緊急時に米連邦準備理事会(FRB)がドル資金を供給してくれるかどうかを欧州の中央銀行や監督当局が疑問視しており、金融関係者らが非公式の会合を開いたことが分かった。6人の情報筋が明らかにした。米国からのドル資金供給は、市場にストレスがかかった際の金融安定化の根底をなしてきた。

複数の情報筋はロイターに対し、FRBが資金を供給しない可能性は極めて低いと考えており、FRBがそれを取りやめることを示唆するようなシグナルは出していないと指摘した。一方、トランプ米大統領はウクライナに侵攻したロシアを支持するような姿勢を見せたり、欧州の安全保障に対する米国の取り組みに疑問を呈したり、同盟国からの輸入関税を強化したりと、米国の伝統的な政策方針から逸脱する動きを見せている。

2人の情報筋によると、金融システムのリスクを評価する欧州の複数の会議では、米政府がFRBに圧力をかけてドル供給を一時停止させるシナリオを議論している。また、数人の関係者によるとFRBに代わる選択肢を探っているが、欧州中央銀行(ECB)と欧州連合(EU)の監督当局を含めた6人の情報筋はFRBに代わって役割を果たせる金融機関は存在しないとの見解を示した。

ECBとFRBはこの件に関するコメントを拒否した。ホワイトハウスもコメントの要請に応じなかった。

ユーロ圏の中央銀行高官5人によると、非公式の会合はFRBやECBの指導部からのシグナルを受けて進められたものではないと説明。会合を直接知る情報筋の1人によると、この数週間にわたって当局者が課題を検討することを支援するワーキンググループで議論されており、欧州の中央銀行や監督当局の上級の担当者が関与している。

また、別の関係者によると、欧州がFRBの後方支援に頼ることができるかどうかという問題については、より公式な会合でも近く取り上げられる見通しだ。

情報筋の1人は「米当局の国際的な協力体制への関与が弱まる可能性がある」という中で話し合っていると説明した。

ECBのラガルド総裁はEU欧州議会の20日の公聴会で、米国の保護主義への移行と欧州経済に与える影響に関し、トランプ氏が1月に復帰後もFRBとの関係は変わっていないと訴えた。

<リスク評価>

ユーロ圏20カ国の中央銀行であるECBは金融政策を決定し、金融システムの強靱さを高め、リスクを特定する責任を負っている。このため、情報筋は資金調達の選択肢に関する議論は、ECBや他のEU規制当局が当然のように実施しているユーロ圏の金融システムの脆弱性に関する広範な分析の一部だと指摘した。

ドルは貿易と資本フローの主要通貨となっており、市場にストレスがかかると投資家や企業、金融機関は世界の基軸通貨であるドルの安全性を頼る傾向がある。

2023年のクレディ・スイスの経営危機でFRBはスイスの中央銀行に数百億ドルを提供し、クレディ・スイスは預金者らが現金を引き出す動きに対応することができた。クレディ・スイスはスイスの金融大手UBSに救済されたが、FRBの動きは金融システムを破壊しかねない事態を回避するのに役立ったとアナリストは評価する。

FRBがドル供給を縮小する可能性は、欧州の当局者の間では可能性が極めて低いと考えられている。もしもFRBがそのような動きを見せた場合、世界市場と金融の安定性、経済に深刻な影響を及ぼすからだ。複数の情報筋は、その場合には米経済に跳ね返る可能性も高く、ドルの優位性を脅かし、米国債の需要を押し下げるとの見方を示した。

会合について詳しい6人の情報筋のうち4人によると、一部の欧州当局者はトランプ政権が時間の経過とともにFRBへの圧力を強め、ドル資金を供給しないというシナリオにつながる可能性があると感じ取っている。

この可能性についてFRBとホワイトハウスはコメントを拒否した。

ある情報筋によると、EU当局者は欧州の銀行がドル建てで短期の借り入れをしており、そのためFRBの融資枠への継続的なアクセスが不可欠になっていることに懸念を示している。

ECBの最近の調査によると、ユーロ圏の銀行の資金調達のうち約17%をドル建てが占めている。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中