ニュース速報
ビジネス

アングル:トランプ氏が多様性政策撤廃、企業は「DEI」に変わる言葉模索

2025年01月24日(金)18時17分

 1月22日、トランプ米大統領が民間企業に「多様性、公平性、包摂性(DEI)」プログラムを廃止するよう圧力を強めているため、スイス・ダボスで開催中の世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)に出席している企業幹部の一部は、DEIに変わる言葉を探している。写真は20日、トランプ氏の就任式をスクリーンで見るダボス会議参加者(2025年 ロイター/Yves Herman)

[ダボス(スイス) 22日 ロイター] - トランプ米大統領が民間企業に「多様性、公平性、包摂性(DEI)」プログラムを廃止するよう圧力を強めているため、スイス・ダボスで開催中の世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)に出席している企業幹部の一部は、DEIに変わる言葉を探している。DEIに基づく職場慣行は事業に必須だと考えているからだ。

トランプ氏は、連邦政府機関における女性や人種的マイノリティ、LGBTQ+(性的少数者)の雇用機会を促進するDEIプログラムを打ち切る一連の大統領令に署名。政府から契約を受注している民間企業に対し、採用の際に少数派の比率を勘案するのをやめるよう求めている。

トランプ氏のこうした取り組みは、世界的なジェンダー平等、多様性のある労働力、少数派の採用向上を重要な目標に掲げるダボス会議にも影響が及んでいる。

米政府から契約を受注しているメタとアマゾン・ドット・コムはDEIの取り組みを一部縮小すると発表しているが、ダボスでロイターの取材に応じた経営幹部らは別の名称の下で方針を継続する考えを示した。

米国の再生エネルギーに多額の投資を行うポルトガルの電力大手EDPのミゲル・スティルウェルダンドラーデ最高経営責任者(CEO)は「名称について多くの議論、時には論争が起きている。重要なのは、われわれが出自や性、民族に関係なく最も優秀な人材を確保し、彼らが最高の労働条件の下で安心して働けるよう望んでいることだ。形だけDEIの目標を達成しようとしているわけではない」と強調した。

他の政策当局者や経営者は、DEIという略語は使いづらくなってしまったと指摘しつつも、多様性確保の取り組みを一段と強める姿勢を示した。

<ハイテク企業の政府契約>

米国政府と受注契約を結んでいるハイテク企業幹部少なくとも3人は、ロイターの取材に対して多様性プログラムを続けると発言。トランプ氏の大統領令によって政府との契約を失うリスクがあるため、DEIの取り組みを表現する新しい方策を探さざるを得ないだろうが、こうした施策を完全に廃止することはないと述べた。

匿名を条件に取材に応じた欧州のハイテク企業幹部は、包摂性と多様性への強い関与を後退させるつもりはないと断言。「われわれは何年にもわたり、より持続可能で公平な世界を築くために邁進しており、それは企業文化に根付いている。世界は多様であり、従業員層もそうした多様性を反映している。それは素晴らしい技術革新を生む鍵の一つであり、ビジネスにとっても良いことだ」と述べた。

もっとも、ダボス会議の出席者全員がこうした考え方に同調しているわけではない。

新興企業スケールAIのアレクサンドル・ワンCEOはXの投稿でトランプ氏の大統領令を称賛し、ハイテク分野で「MEI(実力、卓越性、知性)」を重視すべきだと主張した。

またニッキー・ヘイリー元米国連大使もダボス会議に合わせて開かれた討論会で「全ての実業界でDEIの後退が起き始めている。私はこうした動きを歓迎する。本当に重要だと思う」と述べた。「米国民は皆、ただ米国人でありたいと思っている。ラベルを貼られたくないのだ。もう耐えられないと感じている」と訴えた。

<資金の流れ>

ダボス会議に集まった銀行関係者によると、トランプ氏の政策によって多様性への投資が枯渇することもなさそうだ。

米コンサルティング大手ベイン・アンド・カンパニーのEMEA地域プライベートエクイティ部門の責任者、アレクサンダー・シュミッツ氏は「この世界の投資家にとってESG(環境、社会、企業統治)基準(その中にDEIも含まれる)は非常に重要で、今後もそれは変わらないだろう」と予想。「より高いレベルから見ると、ESG投資という包括的で巨大なテーマは依然として存在しており、大きな後退はまだ見受けられない。もしあなたがプライベートエクイティ(PE)ファンドで、DEI戦略を後退させ始めれば、他の影響もあるが、資金調達に問題が生じる可能性が高い。それは避けたいことだ」と述べた。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EUと南アが重要鉱物に関する協力協定、多国間主義維

ビジネス

BNPパリバ、中核的自己資本比率目標引き上げ 27

ビジネス

米アボット、がん検査エグザクトサイエンスを230億

ワールド

中国、仏製戦闘機ラファールの販売妨害で偽情報作戦=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 8
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中