ニュース速報
ビジネス

焦点:トランプ氏勝利でドル高継続か、為替市場に「地殻変動」の兆し

2024年11月07日(木)18時10分

 11月7日、トランプ氏が米大統領に返り咲く見込みとなり、ドルに注目が集まっている。ドル上昇が続けば、米国内製造業から新興市場まで、広範囲に影響を及ぼす可能性がある。ソウルで2011年撮影(2024年 ロイター/Lee Jae-Won)

Saqib Iqbal Ahmed

[ニューヨーク 7日 ロイター] - トランプ氏が米大統領に返り咲く見込みとなり、ドルに注目が集まっている。ドル上昇が続けば、米国内製造業から新興市場まで、広範囲に影響を及ぼす可能性がある。

大統領選挙で共和党候補のトランプ氏の勝利が確実となり、議会上院では共和党が多数派を奪還、すでに多数派の下院でも順調に議席を積み上げる中、6日のドル指数は8年ぶりの大幅上昇を記録した。

ドルは年初から3.8%上昇し、4カ月ぶりの高値水準にある。ここからさらにどれだけ上昇するかは、トランプ氏の経済政策の核心である減税と関税が実施されると投資家が信じるかどうかにかかっている。これらの政策は成長を押し上げるとともに、インフレを加速させるリスクもあり金利が他国より高い水準にとどまる可能性がある。

相対的な金利の高さはドルの魅力を高める。ただ「強いドル」は米国企業に打撃となり得る。トランプ氏は大統領1期目に国内企業にマイナスになるとして折に触れてドル高を非難していた。「次期トランプ政権が志向することになる支出拡大、景気拡大、高い貿易障壁は全てドル高を意味する」とマネックスUSAのトレーディング部門アソシエイトディレクター、ヘレン・ギブン氏は指摘する。

<FRBの金融政策の影響>

ドルの見通しにとって重要なのは金利の道筋だ。米連邦準備理事会(FRB)は9月に0.5%ポイントの利下げで金融緩和サイクルに入ったが、インフレ懸念が再燃すれば、追加の利下げに慎重になる可能性がある。LSEGによると、来年の利下げ予想は6日時点で約42ベーシスポイント(bp)で先月の62bpから縮小した。

アムンディUSAの債券・通貨戦略ディレクター、パレシュ・ウパダヤ氏は「(投資家は)貿易関税、それが米インフレ見通しや世界成長見通しに及ぼす影響、それにFRBがどう対応するかを考慮しなければならなくなった」と指摘し「通貨市場の地殻変動」と表現した。

今回の選挙では大統領、上下両院を共和党が押さえる「トリプル・レッド」となるとみられ、これはトランプ氏の政策実現性を高める。

ジェフリーズのグローバルFX責任者、ブラッド・ベクテル氏は、トリプル・レッドならドルはさらに5%上昇し、トランプ氏の政策の実現に伴い今後数カ月に一段と上昇する可能性があると考えている。大統領の就任日は来年1月20日。

トランプ氏が勝利した16年、ドル指数は選挙後の2カ月で約6%上昇したが、その後数カ月でその上昇分を失った。トランプ政権が中国やメキシコなどに追加関税を発動した18年2月から20年2月にかけて約13%上昇した。  

<副作用>

ドル高は、輸入価格を押し下げインフレを抑制する一方で、米国製品の輸出競争力を損ねるもろ刃の剣だ。海外利益をドルに交換する必要がある多国籍企業の利益も圧迫する。

JPモルガンの調査によると、貿易で加重平均したドルの実効為替相場が2%上昇するごとに、S&P総合500種指数構成企業の収益の伸びは1%縮小する。

ドル高が成長の向かい風になれば、トランプ氏はFRBに利下げを要求したり、貿易相手国・地域に自国通貨押し上げ圧力をかけることが予想される。

さらに1期目では使わなかった手段だが、1930年代に為替安定ツールとして創設された約2150億ドル規模の為替安定化基金を活用する可能性もある。だがFRBの支援や各国との協調抜きで、どこまでドル高を抑制できるか、アナリストは懐疑的だ。

ウェルズ・ファーゴは6日付のリポートで「トランプ氏のドル安志向はFRBの賛同と連携を必要とするが、それは見込み薄」と述べた。

国際基軸通貨であるドルの持続的上昇は他の資産に影響を及ぼす。ドル建てで多額の借り入れをしている国は返済負担が重くなり、新興市場国は歓迎しない可能性がある。

ドル高はこれらの国と日本のような先進国の中央銀行に通貨防衛のための利上げを迫るとジェフリーズのベクテル氏は指摘、「過去にも何度かあった通貨戦争の再燃」を予想する。

一部投資家は、関税は企業や消費者の負担を重くし、サプライチェーンの混乱、貿易縮小につながるとして最終的に米国経済にマイナスになると考えている。これらの要因はドル高見通しを後退させることにもなる。

ドイツ銀行の調査によると、トランプ関税が実施された場合、米国の国内総生産(GDP)を約0.25ポイント押し下げる可能性がある。

決済会社Corpayのチーフマーケットストラテジスト、カール・シャモッタ氏は「完全に保護主義的な政策アジェンダは最終的に米国経済に跳ね返り、成長を鈍化させる」と指摘した。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルとパレスチナ、米特使訪問でガザ停戦を模索

ビジネス

大韓航空、アシアナ航空買収完了 アジア有数の航空会

ビジネス

豪BHPとリオにセクハラ集団訴訟、秘密保持契約で告

ワールド

米国民、不法移民への寛容度やや低下 収容所使用には
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国 戒厳令の夜
特集:韓国 戒厳令の夜
2024年12月17日号(12/10発売)

世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 3
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 5
    ノーベル文学賞受賞ハン・ガン「死者が生きている人を…
  • 6
    韓国大統領の暴走を止めたのは、「エリート」たちの…
  • 7
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 10
    統合失調症の姉と、姉を自宅に閉じ込めた両親の20年…
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 4
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 5
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田…
  • 6
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 7
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社…
  • 8
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 9
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 10
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中