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再送-インタビュー:春闘次第で来年4月に政策変更への条件整う可能性=武藤元日銀副総裁

2023年12月01日(金)06時59分

元日銀副総裁の武藤敏郎・大和総研名誉理事は、ロイターのインタビューで、来年の春闘が今年並みか若干上回れば物価目標が見通せる状況になるのではないかとし、来年4月にも政策変更の条件が整う可能性があると指摘した。9月30日撮影(2023年 ロイター/Issei Kato/File Photo)

Takahiko Wada Tetsushi Kajimoto

[東京 30日 ロイター] - 元日銀副総裁の武藤敏郎・大和総研名誉理事は、ロイターのインタビューで、来年の春闘が今年並みか若干上回れば物価目標が見通せる状況になるのではないかとし、来年4月にも政策変更の条件が整う可能性があると指摘した。政策修正する場合は、マイナス金利とイールドカーブ・コントロール(YCC)は同時解除の可能性が高いとする一方、異常な金融緩和から「正常化した金融緩和」に戻す意味合いだと述べた。

一方、日銀による上場投資信託(ETF)の買い入れについて「株価支持政策になっており、一刻も早くやめた方がいい」と述べた。株安になるリスクがあることから「保有ETFを売却するのは適当でない」とし、「当面は凍結しておくしかない」と語った。

<物価目標達成、来年4月展望リポートが重要に>

物価2%目標の実現に向け、日銀は賃金と物価の好循環が自律的に回ることが重要だとしており、来年の春闘の帰すうが最重要ポイントになる。

今年の春闘での賃上げ率3.58%に対し、大和総研は来年の春闘は今年並みか若干上回る賃金引き上げを予想している。武藤氏は、サービス価格も上昇し、需給ギャップも改善していることに触れ、春闘が大和総研の予想通りの結果になれば「2%物価目標が見通せる状況になったと言えるのではないか」と述べた。

その上で、来年4月の展望リポートが重要になるとの見方を示した。「4月の展望リポートでは、春闘の情勢を受けて物価見通しが上方修正される可能性がある。2025年度の見通しも、4月になれば1年先の見通しとなって確度が上がってくる」と指摘。データ次第ではあるものの、もし日銀が2%目標を達成するということが見通せたとの判断を展望リポートで示せば「4月に政策変更する条件が整う」と述べた。

<マイナス金利・YCC「同時解除の可能性高い」>

物価目標の実現が見通せた場合の政策修正について、武藤氏はマイナス金利とYCCは「同時に解除の可能性が高い」と述べた。ただ、その場合でも「マイナス金利やYCCという異例な金融緩和から『正常化した金融緩和』に戻すという意味合い」だと指摘した。日銀が、同時に解除するのは市場や経済へのショックが大きいと判断すれば「その時の状況によって別々に解除することも考えられる」と話した。

マイナス金利解除後は「データオリエンテッドな対応をしていくことに尽きる」とみている。

<ETF、いずれ有効活用の議論に>

ETFの買い入れは大規模緩和の一環で、その扱いは出口戦略の焦点の1つ。日銀は9月末時点でETFを37兆1160億円保有する。評価益は23兆5000億円余り、ETFからの分配金は1兆円を超えており、国会ではETFの扱いがたびたび議論になる。

武藤氏はETFの分配金について「株式市場の活性化に使うなど、いずれ有効活用を言い出す人が出てくるのではないかと予想する」と述べた。

<政治と「真っ向からの衝突は避けたい」>

植田和男総裁の下での金融政策運営について、武藤氏は「市場に混乱も生じておらず、うまく対応している」と評価した。

一方で、コミュニケーションが分かりにくいと述べた。市場では、日銀が金融正常化にいつ舵を切るか関心が向かっているが「植田日銀はその点についてまだはっきり説明していない」とし「正常化の道筋をどのように進めるのかきちんと説明することが必要ではないか」と話した。

政府・日銀は共同声明の下、デフレ脱却に向けて連携してきた。マイナス金利やYCCの解除を巡り、武藤氏は「日銀の考えに従って粛々と行動すべきだと思うが、政治と真っ向から衝突するのは得策ではない」と指摘。マイナス金利を解除しても歴史的に見ればきわめて緩和的な金利水準であることや、金融政策は常にフォワードルッキングな運営をしていかなければならず、打つ手が遅れるとインフレの懸念もあるということを政治や国民にきちんと説明すべきだと話した。

武藤氏は「政府のデフレ脱却宣言をいつやるかは見通しづらく、(マイナス金利やYCCの解除に当たり)デフレ脱却宣言を待つのは適切でない」とも指摘した。

<厳しい財政、ばらまきととられないよう留意を>

岸田文雄首相が打ち出した所得減税と所得支援は評判が良くないが「財源や目的について、説明が十分ではないのではないか」と述べた。「財政状況が非常に厳しくなる中で、さらに財政負担をかけることには国民もちょっとした不安を持っている。ばらまき政策ととられないように留意すべきだ」とも語った。

英国では昨年、トラス前首相が財源が不透明な大型減税策を打ち出して市場が混乱し、退陣に追い込まれた。

武藤氏は「長期にわたり、10年金利がゼロ近傍で推移してきたことが財政規律を喪失させる結果に結びついているのではないか」とみている。「仮に金融緩和政策の修正が進んでいくと、長期金利を市場が決めるメカニズムが機能するようになる。そうすれば財政規律をもたらす契機にはなる」と語った。

武藤氏は財務次官を経て2003年に日銀副総裁に就任。副総裁として、2006年3月に量的緩和解除、同年7月にゼロ金利解除の決定に関わった。岸田首相とは開成高校の先輩・後輩の間柄。

(和田崇彦、梶本哲史)

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