コラム

自民党の不可思議な死

2010年03月03日(水)18時10分

新生党代表幹事だった小沢一郎の主導の下で8つの政党が連立を組んで誕生した細川政権は1994年、小選挙区制と比例代表制を組み合わせる選挙制度改革案を可決した。日本の政治家(とアメリカの政治学者)は当時も今も、この新制度によってイギリス型の二大政党体制が生まれ、政治行政改革が進むと期待している。

 別の言い方をすれば、日本の政治体制は、民主党に対抗する第二の政党の存在を必要としている。それが自民党でない場合には、似たような後継政党がその役割を担うだろうが、自民党は2大政党の一つとして生き残るだろうと目されている。党としての歴史があるうえに、制度インフラや金融を支配してきたおかげで、自民党はまだ誕生していない他政党と比べてはるかに優位な立場にある。

 なのに、自民党は破滅への道を進んでいるようにみえる。参議院議員の松田岩夫は3月1日に離党届を提出。昨年夏の総選挙敗北以来、自民党を離党した参議院議員はこれで5人目だ。

■谷垣批判を続ける舛添が新党結成を示唆

 自民党が鳩山政権に対抗する政策を打ち出せていないことは、国会での予算審議を4日間拒否した件をみてもわかる。小沢一郎幹事長と鳩山由紀夫首相の証人喚問と、総選挙の実施を要求する以外には、自民党は国家が直面する課題について語ることを何ももちあわせていないようだ。


 2008年には自民党に27億円を寄付した経団連も、企業・団体献金への関与を中止する方針を固めており、自民党には大きな打撃だ。

 自民党執行部にとって最も深刻なのは、国民の人気が高い舛添要一・前厚生労働相が、谷垣禎一総裁と党幹部への批判を始めたことだ。舛添は党内有志30人で「経済戦略研究会」という勉強会を立ち上げたが、彼の本当の力は同志の数より、口を開くたびに執行部を非難をする能力にあるのかもしれない。

 舛添は昨年夏の敗北以来、自民党が何の改革もしていないことを指摘し続けてきた。3月1日には日本外国特派員協会で講演し、政党支持率が低迷し、党改革が進まないのは谷垣のせいだと示唆。谷垣が辞任すれば党改革が進むと話した。さらに、前原誠司国土交通相などの民主党議員も含む政界再編で、新党を結成する可能性も否定しなかった。

■民主党の10年を見習うべき

 自民党幹部は最近、派閥の解消について再び議論している(総選挙後の総裁選挙で一時浮上したものの、谷垣の総裁就任で立ち消えになった案だ)。だが、派閥を廃止したり、「勉強会」という呼び方に変えても、せいぜい見た目が多少よくなるだけ。自民党に必要な改革は、民主党が政権交代をめざして10年かけて行ってきたような改革──党運営や政策決定、選挙戦略の権限を党首周辺に集約し、国民の懸念に応える一貫した政策を打ち出すことだ。

 自民党はなぜ、今まで改革に失敗してきたのか。そして、舛添が谷垣を総裁辞任に追い込んだとしても、自民党改革が進まない可能性が高いのはなぜか。

 理由はたくさんありそうだ。たとえば、自民党はその成り立ちからして、野党になれないという点。ほとんどの議員は有権者に中身のある話をする力がないし、今となっては支持者が喜ぶ事業に税金を投入することもできない。アイデアを授けてくれた官僚とのつながりも薄くなっている。

 総選挙後の議員の構成も、改革が進まない重要な要因だ。元閣僚などのベテラン議員や世襲議員が多すぎて、若手議員がほとんどいない。彼らは自分のネームバリューや強固な選挙基盤によって勝ち残ってきたため党本部への恩義を感じておらず、権限集約の動きを支持する可能性は低い。

 さらに、政治思想が果たす役割も関係あるかもしれない。舛添は世論の支持を受けているが、権力を勝ち取れるほど党内に支援者がいるとはいえない。小泉チルドレンがかなり含まれていた保守改革派も議員数が激減した。いま国会に残っているのは現実主義者。つまり、政策については最も現実的かつ柔軟で、既存の党構造に深く入り込んでいる幹部たちだ。

■参院選に勝っても先行きは暗い
 
 同時に、自民党は(大抵の)二大政党制で野党が直面するジレンマをかかえている。与党の政策に協力し、野党として良心的な批判を展開すべきか。それとも、すべてに反対し、民主党政権以前の古き良き時代への回帰をアピールすべきか。
 
 評価が二分される小泉政権や、安倍、福田、麻生政権の失敗のせいで、後者の選択肢を取るのはむずかしい。かといって、自民党には前者のアプローチを取る能力もなさそうだ。

 その結果、今の自民党は「政治とカネ」の問題で鳩山と小沢を攻撃するしかない。だが、国民はこの問題にさほど関心がなく、とくに自民党に指摘されたくはないと思っている。

 最後になるが、自民党が改革できないのは、まさに舛添が指摘した谷垣の力不足のせいかもしれない。谷垣は、総選挙後の混乱の渦中で派閥の領袖が合意した代理人にすぎない。

 確かなのは、衰退の一途をたどる自民党が、この流れを変えることはできないということだ。与党の立場に適任だった自民党は、長期間の野党暮らしを生き延びられないかもしれない。仮に夏の参院選で健闘しても、パートナーだった公明党が民主党に接近し続けるかぎり、何の意味もなさそうだ。


[日本時間2010年3月2日12時06分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

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