コラム

絶対権力者となった習近平が生む「脆弱だが暴力的」な中国の危険度

2021年11月16日(火)11時14分
習近平国家主席

習近平は慣例を破り3期目に入るとされる XINHUA/AFLO

<半永久的に総書記を務めると見られる習近平だが、国内では歪みが拡大し、国際的には今後10年の中国は特に危険な存在となるだろう>

中国共産党の第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)が11月11日に閉幕した。4日間の非公開会議は、党の歴史を総括する「歴史決議」を採択。習近平(シー・チンピン)総書記(国家主席)を2人の偉大な党指導者、毛沢東と鄧小平に並ぶ存在と位置付けた。同会議では、誰もが知っている既定路線も再確認された。来年の党大会で習が次の5年間も総書記に再選され、その後も半永久的に党指導者を続けるという路線だ。

中国にとっての問題は、習が多くの問題の原因となった共産党の中央集権体制をさらに強化する気であること。世界の問題は、習が世界秩序の現状変更を図る一方、中国が柔軟性を失いつつあることだ。

中国の台頭と野心によって国際的な既成秩序が不安定化するなか、今後数十年は世界史上最も重要な時期の1つになりそうだ。習が任期を「無期限化」したのは、その事態に備えるためでもある。

習の権力はほぼ間違いなく盤石だが、あらゆる変化や成長は国内外で安定を脅かし、暴力的紛争のリスクを高める。習と党は、中央集権とイデオロギーへの服従が強さと安定を生むと信じている。習は自分によく似た「くまのプーさん」の写真投稿を禁止することで、中国の統一を維持するのだ。

習をはじめとする党指導部は、旧ソ連の崩壊をよく研究して2つの結論に達した。まず、ソ連の指導者は共産党支配に挑戦する人々への対応が甘かったということ。そして、「欧米の価値観」は党の支配を揺るがし、中国を不安定にするということだ。

ある時、アメリカの政治家がアメリカの優位性を守るため外国諜報機関から守るべき5つの技術を特定せよとCIAに求めたことがある。われわれはアメリカの優位性のカギは特定技術でなく、失われがちな開放性を守ることにある、と答えた。

中国の存亡にかかわるいくつも問題

だが、習は時間との競争を強いられている。不動産市場の崩壊リスク、非効率な投資、人口動態の変化と、中国は存亡の機につながりかねない問題をいくつも抱えている。また、経済成長が鈍化しているため、個人資産の増加で忠誠心と暗黙の支持を買うことはもうできない。

これらの問題を引き起こした元凶は政府と共産党の硬直性だが、習の対応は元凶をさらに強化することだった。

習は6中全会で、アジアの覇権国として、世界最高の経済・技術・軍事大国としてアメリカに取って代わろうと挑戦する権限を手にしたといえそうだ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏のガザ危機対応、民主党有権者の約半数が「

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story