コラム

日韓を引き裂く旭日旗の呪縛

2018年10月11日(木)17時00分

旗には国家のアイデンティティーと歴史が込められている。そうした存在であるが故に、旗の扱い次第で国民のプライドが粉々になることもある。

プライドとは傷つきやすいものであり、妥協を受け付けない。そうであれば、挑発的なシンボルは使わないことが唯一の長期的な解決法だ。もっともこの手法を取れば、今度は右派の怒り、場合によっては暴力を招く。

だがこの点にこそ、アメリカと日本が心得るべき教訓がある。愛国心や尊厳、伝統といった美名で覆い隠そうと、ナショナリズムの価値観は究極的には支配の歴史の正当化の上に成り立つ。ならばなおさら、旗をめぐるナショナリズム的意見は引っ込めなければならない。ナショナリズムは常に排他的なものだ。

日本政府は近年、第二次大戦中の行いについてはもう十分な反省を表明したとの立場を強める。日本社会には、韓国の終わりのない日本批判と屈辱的な謝罪要求に憤るナショナリスト的な見方が広がっている。

しかし米南部出身のノーベル文学賞受賞作家、ウィリアム・フォークナーはかつて言った。「過去は死んでいない。過ぎ去ってもいない」と。日本人が旭日旗に抱く感情、米南部の住民が南部連合旗に抱くプライドは正当なものだ。ただし、犠牲者の立場を強いられた人々がこうしたシンボルに覚える痛みや恐怖、怒りもまた正当だ。

自らの正当性を拡大しつつ社会的調和、現在と未来の国際的課題に対して責任を分かち合う体制をつくり出そうとするなら、また同盟関係を求めるなら、「今」に目を向けなければならない。さもなければ私たちは過去の亡霊にたたられてしまう。

ささやかな「譲歩」の意味

国際観艦式をめぐる日本の最優先事項は、同盟国や潜在的パートナー国との親善強化と海軍間の協調強化を通じて、自国の戦略的安全保障を推進することのはずだ。韓国が日本に対して反射的に抱く警戒心や敵意に変化をもたらすことができれば、日本にとって幸いするだろう。

韓国に日本と同じ旭日旗観を強いることは不可能だし、そんな試みをする必要もない。原理原則にこだわる非妥協的な態度を貫けば、日本は無神経で敵対的だという韓国側の主張の証明になる。問題の解決策は単純だ。済州島の港湾や沿岸では旭日旗ではなく日の丸を掲げると宣言すればいい。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

訂正-FRB議長人選、2次面接終了へ クリスマス前

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時1000円超高 米株高を

ワールド

原油先物は小幅反発、ウクライナ交渉進展受けた1カ月

ワールド

NZ中銀が0.25%利下げ、景気認識改善 緩和終了
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story