コラム

トランプ「誰もいなくなった」人事の後で

2018年04月05日(木)11時15分

解任されたり追い出されたりした上級高官は、ほかにも何十人といる。指名から10日でホワイトハウス広報部長を更迭されたアンソニー・スカラムッチ、ロシア疑惑に絡んでFBI長官の座を追われたジェームズ・コミー。その後を受けてFBI長官代行を務めたアンドルー・マケーブ副長官も辞任に追い込まれ、政権発足から10日で解任された司法長官代行もいた。

めちゃくちゃな人事劇からはある意図が浮かび上がる。ロシア情報機関との「協力関係」、平たく言えば国家反逆罪に問われる事態を、トランプは必死になって避けようとしている。

クビになっているのはトップ級だけではない。次席クラスの高位職ががら空きの現状も政権の機能不全の元凶だ。国務省ではこれまでに上級外交官の25%が辞職・退職または解任された。後任はほとんど指名されておらず、トランプ政権は国務省の規模の縮小幅を4分の1から3分の1にする方針だ。

そうかと思えば、誰かの後任にとんでもない不適格者を選ぶ傾向もある。環境保護局(EPA)の長官に地球温暖化を否定する人物を据えたり、エネルギー省が核兵器の管理なども担当することを知らない人物を同省の長官に指名したり......。

そして残されたものは

トランプ政権に首尾一貫した政策というものがあるとすれば、それは孤立主義、ナショナリズム、重商主義だ。WTOやTPP(環太平洋経済連携協定)が体現する自由貿易から、NATOが体現する地域安全保障、国連や気候変動に関するパリ協定が体現する国際法や環境問題の国際的規範まで、アメリカが長らく関与してきた数々の枠組みからトランプ政権は距離を置いている。

だが、この政権に筋の通った政策などない。入れ替え続きで空席だらけの人事の結果としてあるのは支離滅裂と怠慢、政策の実行役が不在のまま大統領の「声明」とツイートで成り立つ政治の在り方だ。

いい例が北朝鮮への態度だ。トランプは「政策ツイート」で金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と嘲り、北朝鮮は「炎と怒り」に直面すると警告する声明を出したかと思えば、一転して米朝首脳会談を「楽しみにしている」とツイートする。

それもこれも、トランプが独り善がりだからだ。この大統領は長めのブリーフィングの際にはじっと座っていることができず、説明に耳を傾ける気もなく、テレビの情報に基づいて衝動的に行動する(視聴するのは超保守のFOXニュースのみ)。彼が部下に求めるのは「あなたは偉大な指導者です」という称賛だけだ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story