コラム

安倍、岸田と相次いだテロは民主主義の危機のシグナルだ

2023年04月24日(月)15時33分

従って真面目な「憂国者」ほど、極端な行動を取ってでもこの政治腐敗を正さなければいけない、という心情に至ってもおかしくはない。安倍晋三元首相を殺害した山上徹也も、政治思想としてはむしろ安倍元首相に近いナショナリストであったことが分かっている。

もしテロ事件が今後続けて起こるなら、それらは犯人への同情が集まったせいで起こる道徳的なアクションではなく、日本の民主主義システムがうまく機能しなくなったせいで起こる政治的なリアクションなのだ。安倍元首相の事件のときもそうだが、こうした事件が起こると「民主主義の危機」が叫ばれる。だが、因果が逆なのではないか。こうした不穏な事件が「民主主義の危機」をもたらすのではなく、不穏な事件は「民主主義が危機」のシグナルなのだ。

思い起こせば戦前の日本も、治安維持法で(主に)左翼の政治思想を徹底的に弾圧したにも拘わらず、血盟団事件や二・二六事件など、「腐敗政治」を正そうとする右翼のテロリズムに何度も見舞われ、軍部独裁と戦争への道に突き進んでいった。

既に書いたように、SNSを中心に犯人に同情を集めかねないのでテロの動機について掘り下げる必要はないという極端な議論が勢力を増しつつあり、一部国会議員や学者までもそれに加担する始末である。しかしもはや、テロの原因を探ることの是非を議論している場合ではない。日本の「民主主義」の在り方を根本から問い直す時期に来ているのではないか。


プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、28年の副大統領立候補を否定 「あざと

ビジネス

韓国との通商合意、大統領訪問中にまとまる可能性低い

ビジネス

JPモルガンの米安保ファンド、最初の投資先はアンチ

ビジネス

ムーディーズ、日本の格付けA1を確認 見通しは安定
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story