コラム

「コロナ危機」に乗じた改憲を許すな

2021年05月03日(月)13時20分

改めてこの1年を振り返ってみると、憲法の緊急事態条項がなくても、政府がもっと真剣に取り組んでさえいれば、三回目の緊急事態宣言の発令とともによりロックダウンに近い対応も可能だったと考えられる。

現在、緊急事態下でも東京の中心部は、スーツ姿のサラリーマンや通学する学生たちで溢れている。学校教育のオンライン化を進め、企業のリモートワークをより強力に支援することで、こうした人出を減少させることも出来たはずだ。またPCR検査の拡充と隔離施設の整備によって、検査と隔離という基本的な感染症対策がスムーズに行えただろう。

憲法改正よりもコロナ対策を

一方で、憲法に仮に緊急事態条項が書き込まれていたとしても、補償への拒否感と利権団体への忖度によって、現行の軽い緊急事態宣言ですら出し渋る政府に、私権の制限を強く伴うロックダウン政策を使いこなせたとは思えない。二回目の緊急事態宣言は、感染者が十分減少したからではなく、聖火リレーのスケジュールに合わせて解除されたのだ。

日本政府は「不要不急の外出」をするなと言いながら、利権団体の突き上げによって、内心では人々に外出してもらいたがっている。オリンピック開催のために、現状が「非常事態」であることを認めず、なるべく危機感を強めない方向に進めたがっている。市民もそれを知っているから、緊急事態宣言下でも外出は減らない。「経済を回す」という自己欺瞞によって感染症対策は疎かにされ、政府はその欺瞞を否定しない。与党政治家自身が支援者との繋がりのため、パーティや会食をやめることができていない。

有効なコロナ政策は、法の支配を強め、オリンピック利権を含めた、利権政治をやめることからしか生まれない。改憲によって政府に強い執行権を与えることは、むしろそれに逆行することになる。強い執行権をもつ政府は、恣意的な利権分配も可能だからだ。

ワクチン接種の進展が政府の無能によって当分見込まれない中で、我々は政府や自治体の首長に対して、今一度コロナ対策への本気さを確かめなければいけない。オリンピックの中止に踏み切れるかどうかも一つの試金石だ。もしそれができないのなら、我々は生き残るために、政権担当者を入れ替えるしかないだろう。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

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