コラム

アラブ世界で焼身自殺が流行?

2011年01月18日(火)17時08分

チュニジアの首都チュニスでベンアリ大統領の辞任を訴える市民たち

独裁への怒り チュニジアの首都チュニスでベンアリ大統領の辞任を訴える市民たち(1月14日) Reuters

cleardot.gif

 エジプトで1月17日、首都カイロの議会の付近で男性が焼身自殺を図ったというニュースが流れた。AFP通信によれば「彼は下院議会前で自ら燃料をかぶって火をつけた」という。地元紙によれば、男性は「保安局の諸君、私の人権はこの国で失われた」と叫んでいたという。

 これは一種のトレンドなのか。昨年末からチュニジアで続いている暴動の発端も、モハメッド・ブウアジジという男性の焼身自殺だった。彼は大卒だが路上の物売りをしており、地元警察からの嫌がらせに耐え切れず、自らに火をつけて命を絶った。

 アルジェリアでも先週から、自国経済の劣悪さに抗議するために合計4人が焼身自殺を図った。17日にはモーリタニアでも同様の事件が発生した。

 こうした自殺の方法は恐ろしい反面、ある種の感動も呼び覚ます。命がけで人々の興味と嫌悪、さらには同情をかき立てるショッキングな方法だ。

 長年チュニジアで事実上の独裁政治を行い、1月14日に国外逃亡して「元」大統領となったゼイン・エル・アビディン・ベンアリですら、自殺を図った男性を案じて病院を訪れた。さらに国営メディアに命じて訪問の様子を伝えさせた(とはいえ、こうした行動もチュニジア国民の心には響かなかったようだが)。

 先ごろエジプトのアハマド・アブルゲイト外相は沈痛な口調で、チュニジアで起きているような抗議行動がエジプトにも広がるという憶測を否定した。「幻想を広め、混乱を拡大させようとする者は、目的を達することなく自らを傷つけるだけに終わるだろう」

 本当にそうだといいのだが。

──ブレイク・ハウンシェル
[米国東部時間2011年1月17日(月)04時00分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 18/1/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 7
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 8
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 9
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 10
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story