コラム

ハイチに届かない国連の援助

2010年03月04日(木)17時38分

 

雨季がくる 首都では今も70万人がホームレスのまま(写真は2月11日、
武装警察に向かって食料や避難所を要求する被災者)
Ivan Alvarado-Reuters
 

 ワシントンの国際難民救済協会は3月2日、1月12日に発生したハイチ大地震の被災地援助に関する報告書を出した。これまでの活動、とくに国連の働きを厳しく非難するものだ。

 国連は05年末から、各国連機関やNGO(非政府組織)が援助を食糧、医療、避難民支援など分野ごとに分担しつつより緊密に協力し合うという「クラスター(集団)・アプローチ」を導入した。だがハイチではこれが完全な失敗だったことは、国連の援助幹部も内部文書で認めている。その悲惨さを要約すれば以下のようになる。先の報告書からの引用だ。


誰に聞いても、ハイチの人道支援チームには指導力が欠如していると言う。地震後、国連の人道調整官が援助機関との会議を開くまでに3週間かかった。

 国連人道問題調整部(OCHA)の最高責任者であるジョン・ホームズ人道問題担当事務次長兼緊急援助調整官はハイチを訪問した際、職員たちをこっぴどく叱りつけた。「いくつかのクラスターでは、援助ニーズの把握や、一貫性ある援助プランや戦略の立案、ギャップ分析がまだ行えていない」と、彼は指摘した。

 ビニールシートを被災者に行き渡らせる期限を5月1日から4月1日に前倒しするにも、ホームズ自身が実務を行わなければならない始末だった。

 雨季が迫っているのに、数万人の被災者が、いまだビニールシートさえ持たないまま屋外で寝起きしている。


■援助組織同士の勢力争い?

 世界中の国連の援助活動にケチをつけるつもりではないのだが、ハイチにおける問題のいくつかは、私がジンバブエから報じたばかりの問題と不気味なほど酷似している。ジンバブエでは、コレラの流行に対する国連の対応が数カ月も遅れた疑いがもたれている

 ジンバブエでは現地政府の圧力で仕事が進まなかった可能性もあるのだが、ハイチでは、また別種の政治が援助活動の妨げになったかもしれない。国連の援助機関や国際NGOと、現地NGOとの間の勢力争いだ。


 現在、ハイチの市民団体と、国連や国際NGOとの間の調整やコミュニケーションはほとんどなく、それぞれが別個に同じような活動をしている。地元の援助組織は、首都ポルトープランスの国連施設で行われる会議になかなか出席できない。

 国連機関と国際NGOは、組織横断的なクラスター・グループを作ってコミュニケーションの向上を図り、具体的ニーズを議論し、活動の調整を行っている。重複を避け、できるだけ多くの人々に援助の手を差し延べるためだ。

 だがハイチのグループはこうした会議が行われていること自体を知らないか、写真付きの身分証明書をもたないために入場を拒否されたり、人手不足のために長時間の会議に出られずにいる。


■PKO部隊の存在にも不信感

 報告書は、海外から多くの援助団体が押し寄せたがための悲劇的な困難にも焦点を当てている。


 地元住民は、国連平和維持活動(PKO)やアメリカ、カナダ軍部隊は、いちばんの危険にさらされているハイチ人を守るためではなく、国際援助組織で働く人々を守るために派遣されたと感じている。


 ハイチ支援を効率化し迅速化できるかどうかによって、今後数カ月、文字通り数十万人の生死が左右されることになる。報告書によれば、「ポルトープランスには家も避難所もない被災者が約70万人、首都を去った被災者も60万人に上る」。

 これから雨季がくれば、避難所も新鮮な水も必要になる。バラバラの援助活動が続けば、どちらも不足したままだろう。

──エリザベス・ディッキソン
[米国東部時間2010年03月02日(火)18時31分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 4/3/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 9
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story