コラム

確信なきオバマ増派演説

2009年12月02日(水)18時12分


苦渋の決断 12月1日、アフガン新戦略についてのオバマ演説にアメリカ人が期待したのは、
具体的かつ到達可能な目標だったが  Joshua Lott-Reuters


 たった今、バラク・オバマ大統領の演説が終わった。アフガニスタン新戦略で、3万人規模の駐留米軍を追加増派するという。聞いた直後の感想を言えば以下の通りだ。

 まずオバマの説明がどれほど力強いものだったとしても、この戦争に価値を見出さない人々を説得することはできなかった可能性が高い。だが一方、テレビで演説を見た視聴者は、大統領が具体的かつ到達可能なゴールを設定するのを待ち望んでいたと思う。

 中央アジアにスウェーデンのような国家をつくろうとしているわけでないのは明らかだが、米軍が撤退を開始する2011年までにアフガニスタンがどんな国になっていればOKなのか、大統領が語ることには重要な意味があった。その点に関する大統領の言葉を引用しよう。


ゴールに到達するために、われわれはアフガニスタンで次のような目標を追求する。アルカイダに安全な隠れ場を与えてはならない。タリバンの勢いを潰し、彼らにアフガニスタン政府を転覆させる能力を与えない。アフガニスタンの治安部隊と政府が自国の未来に責任をもてるよう、彼らの力を強化しなければならない。


これらの目標が実現できたか否かについては、2011年になっても議論の余地が残る可能性が高い。また、オバマが演説でパキスタンの重要性を強調していたことを考えると、彼がパキスタンの安定を目標に含めなかったのは興味深い。もっとも、米軍を派遣してパキスタンのアシフ・アリ・ザルダリ大統領のために命を賭して戦うなどという提案が受け入れられるはずもないのだが。

ベトナム戦争との比較を明確に否定する発言も飛び出した。


まず、アフガニスタンは第2のベトナムだという人々がいる。彼らはアフガニスタンを安定化させることはできないから、損切りをして早急に撤退すべきだと主張する。

 だがこうした議論は間違った歴史認識に基づいている。ベトナムと違い、アフガニスタンではアメリカの行動の正当性を認める43カ国と幅広く連携している。またベトナムと違い、一般市民による大規模な反撃もない。

 そして何より重要なのは、ベトナムと違い、アメリカ国民はアフガニスタンから悪意に満ちた攻撃を受けた過去があり、同じ過激派が今もアメリカを標的にしている点だ。この地域を今見捨てて、遠方からアルカイダを叩く手法のみに頼ることになれば、アルカイダに圧力をかけ続けるアメリカの力は著しく損なわれ、アメリカ本土や同盟国がさらなる攻撃を受けるという受け入れがたいリスクが生じる。


■慎重な語り口が国民の心に響く

 オバマの主張にはどうも納得がいかない。アフガニスタンの状況がベトナムと似ていないというだけで、同じように泥沼化する可能性を排除することはできない。イラクの状況もベトナムとそう似ているわけではないが、泥沼に陥っている。

 また、アフガニスタン政府の機能不全を考えると、限定的な対テロ戦略が最もましな選択肢ではないかというジョー・バイデン副大統領らの問いかけにも、オバマは答えていない。

 オバマの慎重な語り口からは、大統領自身がこの戦略に熱心ではない様子がにじみ出ていた。大統領の心は戦闘モードになっていないと指摘する評論家もいるだろう。だが複数の選択肢に心が揺れながらも、増派は必要だと覚悟を決めたオバマの心境は、銃を掲げて軍隊招集を叫ぶよりはずっと、多くの視聴者の心に響くと思う。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2009年12月1日(火)21時00分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 12/02/2009. ©2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.


プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story