コラム

モルディブの海中閣議は茶番

2009年10月19日(月)16時23分

pass041009.jpg

海中会議 世界で初めて海中で開催された閣議では、国際社会に対して温暖化ガスの削減を求める決議を採択した(10月17日) Reuters


 インド洋の島国モルディブは10月17日、地球温暖化による海面上昇の危機を世界に訴えるため、海中閣議を実施した。いわく、「今モルディブを救えなければ、明日の世界も救えない」。

 このパフォーマンスに対し、米タフツ大学のダニエル・ドレスナー教授(国際政治学)は疑問を投げ掛ける。温暖化防止策と変化への適応策のどちらに資源を振り向けたほうが費用対効果があるかを「合理的に分析」することが、こうした小国の最優先事項なのだろうか、と。

 それは確かに疑問だ。世界はもうとっくにこうした島国は消滅してもいいと結論付けている。2007年に私が出席した国連の気候変動ハイレベル会合では、地球温暖化をどのレベルまで許容するかが議題の1つだった。1度の上昇(すでに現実だ)? 1.5度、あるいは2度なのか。

 国連総会で小国連合を成すモルディブなどの島国は、1.5度までとすべきだと主張していた(現在もその主張は変わらない)。しかし私が驚いたのは、彼らの行動がとっちらかってるということだ。気候変動が存亡の危機だというのなら、それを訴える記者会見の案内を開催の15分前になって出すのはなぜなのか。なぜ会見に国連大使ではなく、国家元首を送り込まなかったのか。私の記憶では、会見に出席した記者は私を含めて3人だけだった。

 モルディブのモハメド・ナシード大統領は、前任の独裁者マウムーン・アブドゥル・ガユームよりはメディア戦略に長けているようだし、そうでなければ困る。モルディブの標高は最高地点でも海抜2.4メートル。平均では1.2~2.1メートルしかない。これは平均値で、実際には国土の大半がそれより低い。

 国連の気候変動パネルが07年に発表した予測によれば、海面上昇は18~59センチに達する。高潮や大波が来たら、モルディブは大変な被害を被る(国連報告は海面上昇の予測が「上限」ではないと強調している)。このままでは21世紀末までにモルディブの人口約30万人の大半が移住先を探さなければならなくなる。

 ナシード大統領にとっては、1.5度という数字を守ることも厳しい戦いになるだろう。今や科学的にも政治的にも、2度前後まで許容するという線で落ち着いている。その2度の目標に関してさえ、温暖化ガスを削減するための努力はほとんどなされていない。目標達成に向けた取り決めすらない。

 気温が2度上昇したら、モルディブは消滅するのか。それは分からない。しかし世界の政治家たちがどちらでもいいと考えているのは明らかだ。

――ブレイク・ハウンシェル
[米国東部時間2009年10月17日(土)15時01分更新]


Reprinted with permission from "FP Passport", 17/10/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBの金利水準に満足、インフレ目標下回っても一時

ビジネス

グーグル、ドイツで過去最大の投資発表へ

ワールド

マクロスコープ:高市「会議」にリフレ派続々、財務省

ビジネス

ドイツ鉱工業生産、9月は前月比+1.3% 予想を大
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story