コラム

世界=欧米への憧れが日本をダメにする

2012年11月29日(木)11時55分

今週のコラムニスト:クォン・ヨンソク

〔11月21日号掲載〕

 なぜ僕らは21世紀のいまだに、こんなにも欧米が大好きなのだろう。ノーベル賞、ブランド物、メジャーリーグ、プレミアリーグ、ハーバード......。僕たちは骨の髄から欧米を「崇拝」している。

 日本の大学もアジアからの留学生など眼中になく、数少ない欧米からの留学生の争奪戦になっている。だが僕の経験上、彼らの知的レベルとやる気は決して高いとは言えない。ガールフレンドが来日するので、ゼミを3週間休みたいと平気で言ってくる学生もいた。こんな学生をお客さま扱いする大学は恥を知るべきだ。

 欧米崇拝が根強い理由は「欧米=世界」という認識にある。先日、プロ野球のドラフトで大谷翔平投手の米メジャーリーグ直行表明が話題になった。花巻東高校の佐々木洋監督は「岩手から世界で活躍する選手になってほしい」とエールを送った。

 だが「メジャー=世界」なのだろうか。大谷選手は単にアメリカのプロ野球に就職したいだけだ。そこだけが野球の「世界」ではない。WBC二連覇の日本は世界ではないのか?

 なぜ、日本やアジアは世界に含まれないのか。卓球の福原愛が中国に行っても「世界で活躍」とは言わないし、韓国にテコンドーやアーチェリーの修業に行っても「世界を相手に」とは見なされない。なぜ自分たちが世界だと思わないのか。太平洋かユーラシア大陸を横断しないと世界にはたどり着けないのだろうか?

 野球選手のメジャー流出を防ぎたいなら、まず「大リーグ」という意訳を改め、日本人メジャーリーガーに対する過熱報道を見直すべきだろう。その上で「北米一決定戦」をワールドシリーズと呼ぶ彼らの傲慢さを批判すべきだ。

■少女時代をまるで売春婦扱い

 事情は韓国も変わらない。以前会ったソウル大学の先生の話を思い出す。子供をアメリカに留学させた彼は、今はニューヨークで働く息子家族に会った帰りにため息交じりに語った。せっかく教育に投資して「グローバル人材」に育てたが、息子や孫には年に1回も会えず、アメリカ企業で働いているので結局、彼の能力はアメリカのためにしか生かされない。

 では、僕らの一途な欧米崇拝に対する欧米側の答えは何だろう。先日話題になったサッカー日本代表・川島永嗣選手の写真を用いた仏テレビ局の悪質な「ジョーク」は、彼らの根深い人種偏見と傲慢さを物語る。K・POPアイドルの少女時代も、フランスで男性出演者から「今日は誰にしようかな」とまるで売春婦扱いの「ジョーク」を飛ばされた。それでも韓国メディアは「少女時代、フランステレビに出演」と騒いだ。これが文化大国フランスの素顔だが、ルイ・ヴィトンの店に長蛇の列をつくるアジア人を見れば無理もないのかもしれない。

 一番の問題は、欧米崇拝の陰で自国とアジアを自らさげすんでいることだ。留学生や在外研究で日本に来ている韓国人は決まって「実はアメリカか西欧に行こうと思っていたんだけどね」と、自分は本来日本なんかではなく「世界」に行ける立場にあったと弁明したがる。韓国やアジアに行く日本人も同様だろう。

 なぜ、僕達はこれほどまでに自虐的に自国や隣国をバカにし、「欧米=世界」に憧れているのだろう。当の欧米人の中には、仏教や儒教文化、日本文化、村上春樹、PSYや韓国映画に熱狂している人もいるというのに。このままでは欧米への憧れが人材流出を促し、日本や韓国を空洞化させて自らを本当に陳腐で亜流な存在にしてしまうかもしれない。

 だから、iPS細胞騒ぎを起こした森口尚史のような人が出てくるのだ。彼をバカにするのは簡単だが、彼は欧米崇拝病がつくり出した僕らの自画像なのだ。そこでタカアンドトシよ、もう一度ツッ込んでほしい。

「それでも、まだまだ、欧米か!」

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story